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Vol.0004 「NZ編」〜洋上のシャングリラ〜

機内ではぐっすり眠れ、空港ビルを出ればそこは1年ぶりのオークランド。思ったよりも寒かったけれど、爽やかな風に迎えられ、思い切り背伸びを一つ。「キアオラ(マオリ語で"こんにちは")、NZ。」

NZは遠い。そのアクセスの悪さがこの島の成り立ちを独特なものにし、はるか昔には四つ足の動物も、もちろん人間もヘビさえもいない鳥達の楽園とならしめ、キウイや絶滅した巨鳥モアのような、天敵がいないため飛ぶ必要がなくなり羽が退化した珍しい鳥を誕生させたのでした。いくら交通機関が発達して、地球が狭くなってもやはり遠いことに変わりなく、私達の住む香港からは11時間とイタリア当たりに行くのとそうは変わらない時間がかかります。

去年は北島を回ったので、今年は南島を回ることにし、オークランドは乗り換えだけですぐにクライストチャーチへ。南島は9年目、2回目の訪問で、もちろん子供たちは初めて。前回はシンガポールからの旅行で、その時から2人ともここがとても気に入り、「いつか子供ができたらまた来よう」と話していました。その旅行から4ヵ月も経たないうちに香港への転勤が決まり、同時に私は温を身ごもったのでした。その温が今回の旅行中に8歳になりました。

日程はクライストチャーチから鯨が見られるカイコウラ、その後は一気に南下してNZ第4位の都市ダニーデン、それに隣接するオタゴ半島を回り、ミルフォードサウンドで氷河を見て、前回2人とも気に入ったテカポ湖に立ち寄り、再びクライストチャーチに戻る・・というもので、12日間の旅程としてはかなり余裕を持たせたつもりで、そのためマウントクック行きは諦めました。ところが、実際回ってみると、いろんなハプニングに見舞われ、目標としていた町まで辿り着けず手前の小さな町で宿泊するなど、たくさん変更が出ました。でもこれは家族だけで車で回る、全くの手作り旅行の醍醐味とも言え、予定外の出来事を多いに楽しむ旅となりました。この辺の経過はいずれまた、別の機会にでも。

今回の旅行の一番の目的は、1年前に自分の中に降って湧いた「ここに住もう!」という思いを確認するためのものだったとも言えましょう。同時に家族が少しでも私の思いに与してくれたら…という期待もありました。もちろん、いつか住む国を少しでも知っておきたい、何よりここに身を置いてみたいと思っていたことは言うまでもありません。2週間近く、ほぼ毎日宿を変え、いろいろなところを訪れ、さまざまな人と言葉を交わしました。特に意識していた訳ではないのですが、今回ほど現地の人と話をした旅はいまだかつてしたことがなく、知らず知らずのうちに"住人モード"が入って、ご近所気分になっていたのかもしれません。それと同時に名実ともに"フレンドリーなNZ"を実感することもできました。こちらから勇気をもって声をかければ、嫌な顔一つせずに相手をしてくれ、向こうからかけてくれた声にこちらが応えれば、そこからひとしきり話しが弾み、楽しいひと時となりました。

旅行中、「効率vs非効率」、「賑やかさvs静かさ」、「忙しさvsのんびりさ」、「新しさvs古さ」、「速さvs緩慢さ」、「多機能vsシンプル」、「多さvs少なさ」、「広さvs狭さ」、「手軽さvs複雑さ」、「画一化vs不揃い」、「自動化vs手作業」といった対比をずっと考えていました。経済効率を最大限に追及するのであれば圧倒的に前者が良しとされ、後者は改善されなければならず、前者に金銭的な豊かさや、大都市・大国、24時間・365日稼働、不眠不休とくれば、最高効率を追及できる理想形となることでしょう。しかし、NZでの暮らしというのは、かなりが後者に属しています。産業一つをとっても、手間暇かかり、気象条件に左右される第一次産業が大きな比重を占め、超高層オフィスで巨額のマネーを動かしている第三次産業の権現のような金融都市、香港とは対局をなしています。

私は図らずも、前者から後者へ、眠らない街から夜明けとともに働き、日暮れにはベッドにつく人々がいる国へと移り住もうとしているのだと気がつきました。でもこれは、超過密なコスモポリタンな生活に疲れ、どこかでのんびりしたい、というような優雅で贅沢なものではなく、大きな、とても大きな価値感の転換なのです。

修理すれば使える家電製品を、修理が面倒臭いこともあり、お店の言う「修理した方が高くつきますよ」という言葉を意図的に鵜呑みにして捨てる時の後ろめたさは、誰もが感じるものではないでしょうか。本当はそうしたくないのに、効率さやスピードを追及するために意に染まないことを数多く受け容れていかなくてはいけないのも、現代の生活の現状です。

古いものや使えるものを大事にし、手作りの労を厭わず、他人ともっと近くに暮らし、自然や気候を支配するのではなく、受け容れながら暮らして行きたい・・・そんな思いが抑えられなくなり、1年前のほんの気まぐれな思いつきは、1年間をかけてますます強くなりました。でも「単に思い込みではないだろうか?」「NZでの生活を買いかぶり過ぎてはいないか?」という不安ももちろんありました。けれど今回の滞在を通じてそれが杞憂であると確信できました。

地球上のどこからも遠い、洋上のシャングリラ。思いを共にできる心から好きな場所で、心穏やに暮らしていこう!そう思いながら再び香港へと戻って来ました。でもいつか、必ず片道切符で出かけていくことになるでしょう。それまで準備を怠りなく、そして何よりも自分を磨いていこうと思っています。

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夫に「メルマガが長すぎる」と指摘され、今回はちょっと短くしてみました。伝えたいことを文章だけで不特定多数の人に伝えていくのは思いがけず難しい作業です。しかも、その内容が自分が興味をもつ非常に特定のものであればなおさらです。妹にすら「これでメジャーになるのは・・・」という感想をもらいましたが、ヒットページを作ろうとしているわけではないので、より自分の気持ちに忠実かつ、読んでくださる方がいる以上、独り善がりにならないものを追求していきます。しかし、「ビーズ」や「NZ」と、話題がヒラリヒラリと変わっていくのはお許しを・・・。

西蘭みこと