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Vol.0034 「香港編」 〜Same After the Rain〜

7月1日。香港は返還5周年を迎えました。一国二制度で保証されている50年の自治と主権の10分の1の期間が終わったのです。最近、身の回りの外国人で返還を知っている人がかなり少なくなっていることに気付きました。駐在員が多いので5年は一昔前なのでしょう。「日本にいてテレビで式典を見てました」という人もいました。

ですから返還前後、香港が記録的な長雨に祟られていたことを覚えているのは香港人ばかりになってきました。「イギリス統治への別れの涙」と、誰もが月並みな形容を思いつくほど長い長い雨が続いたのです。返還当日も大雨で、中国が主催した祝賀式典も完成したばかりの会場が雨漏りする中で行われたし、撤退するイギリス軍への最後の閲兵をしたチャールズ皇太子は身じろぎもせずに雨に打たれていました。

「どうなる香港?」「世界初の一国二制度は成功するか?」云々、当時はメディアがありとあらゆる可能性をこぞって報じ、チャイナウォッチャー、政治評論家、エコノミストといった専門家たちが新聞やテレビで「香港はこうなる」「経済はああなる」と盛んに予想してくれたものでした。当然ながら香港人がそんなコメントをありがたがって聞くはずもなく、「何も変わらないサ」と聞き流していました。

英国の香港政庁に代わって中華人民共和国香港特別行政区政府(The Government of the Hong Kong Special Administrative Region of the People's Republic of China)と、「香港人でもこの英語のフルネームは言えないだろう」というほど長い名前の政府が成立し、あまりの長さに"SAR"と略称しています。オーストラリア人の友人は言ったものです。「Same After the Rainだから"SAR"なんだ」と・・・。

そのSAR政府は、成立するや否や「明天更好」(明日はもっと良くなる)というスローガンを掲げて親しみ易さを演出しようとしましたが、私はその四文字を街のあちこちやテレビコマーシャルで目にするたびに何か不吉な物を感じていました。「こんなに"明日は良くなる"、"明日は良くなる"と繰り返さなくてはいけないほど、今まで恵まれてなかったんだろうか?」と思わず自問してしまうほど・・・。

あれから5年。当時と比べ不動産価格は6割値下がりし、ほぼ完全雇用状態だったのが7%を上回る未曾有の高失業率となり、財政も赤字に転落し、日本人を始め多数の外国人がこの地を離れて行きました。もっと良くなるどころか、あの返還時をピークにいかなる専門家も予測し得なかったほどに香港は失速してしまったのです。こうして"借り物の土地、借り物の時間"と言われ、明日をも知れず心臓破りのスピードで邁進してきた香港は、その回転速度を緩めることによってどんどん普通の場所になってきているのです。

これも予想外だった急激な中国本土化。今までは遅れているものが進んでいるものに追いつくのが当然と思われていたのに、進んでいるはずの香港が遅れているはずの中国に合わせる形で急速に変わっていったのです。テレビを見ていると目を疑うような垢抜けないコマーシャルが流れたり、"本土風味"を謳う屋台にドアをつけただけのようなレストランがあちこちにできてきたり・・・と、一度手に入れた洗練を香港はいとも簡単に手放し始めたのです。景気悪化で何事も安上がりになっているのも大きな一因でしょうが。

そして香港人の北上。高失業率が押し出し要因にもなり、香港人が職を求めて中国に向かい始めたのです。「給料が1、2割、何だったら3割減っても・・・」と中国での就職を厭わなくなり、「どうせ失業中。仕事があるなら給料半分でも行きたい」、「今までの実績を活かせる千載一遇の好機到来」とそれぞれの思惑でたくさんの香港人が境界線を越え始めました。人材の空洞化はまだ微々たるものですがこの傾向は日増しに強くなっています。

こうした流れの中で、香港人が香港の明日を信じなくなってくれば、景気回復を期待する人もそれに肩入れしていく人も少なくなり、長い物には巻かれろ式に中国に下駄を預けるまでそれほど長い時間はかからないかもしれません。少なくとも「一国二制度」で保証されている45年もかかることはないでしょう。SAR政府は既に「香港ドルをどうするか」という話をかなりオープンにし出しています。

周囲で北上していく人が増え、外国人の知り合いですら上海や広州に転勤になる人が珍しくない中で、西蘭家はせっせと南下計画を進めています。これが吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、自分達の心の趣くところに従っているのでどういう展開になっても悔やむことはないでしょう。方向は違ってもそれぞれの土地で新しい人生を生きていくことには変りなく、この7月1日に誰にともなく、そして自分達に小さくつぶやく「Good luck!」

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「マヨネーズ」 6月22日配信の「お勝手口から失礼します」にあった「アーキチョーク」は「アーティチョーク」でした。配信してから気付いてホームページの方はこっそリ訂正しておきました。一応配信する前に「アーキチョーク」をヤフーで検索したら結構ヒットしたので(10件)、そのままGOしたのですが、「アーティチョーク」だったら3,770件と腰を抜かすほどのヒット数!私がこの美味しさに目覚めたフランスでは「アークティショ」って言ってたから確かに"t"ですよね、失礼しました。でも私と同様に早とちりしている人が世の中10人はいるってことか〜(何の慰めにもなりませんが)。「これは花ですか?野菜ですか?」という質問もありましたが、日本名はチョウセンアザミというんだそうで、花ですが立派な食材です。http://home.impress.co.jp/column/bestfood/webtv/arti2.htmにとてもキレイな写真とお料理の写真を見つけました。ご参照下さい。

西蘭みこと

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