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Vol.0052 「NZ編」 〜三男の妻〜

「その〜、オーストラリアにしたら?」。みんな、ちょっと言いにくそうに、でも「これだけは言っておかねば」という強い意志もにじませて、こう言います。「ニュージーランドに移住しようと思ってるの」と、言った時の一般的な反応です。そして次に、「オーストラリアに行ったことがある?」と聞かれ、「一度もないけど・・・」と答えると、まさに膝を打って立ち上がらんばかりの勢いで、「でしょー。でしょー。でしょー。やっぱりね〜。絶対、一度は行った方がいいわよ!」と言われます。「そうね〜、行ってみたいわね〜。」と、軽く相槌を打つ私。「でもNZに移住してからね・・・」と、内心思いながら。

特にオージーたちは更に半身を乗り出して、「自分の国だからっていう訳じゃないけど」と、前置きをしてから、「仕事が見つかる可能性が高いし、アジア人も多いから子供たちにも抵抗が少ないはず」と、いきなりツボにはまることを言ってくれます。「NZは安全で物価も安いけど、休暇で行く方がいいんじゃない?飛行機ですぐよ」と畳みかけられ、「海でも山でも大自然でも、NZにあってオーストラリアにないものはないわ」と、とどめを刺されます。さすがにオージー本人が言うと、説得力が違います。

イギリス人の英語の先生、シンガポール人の元同僚、韓国人の友人、オージーの息子の担任、その他、友人、知人、同僚にも同じようなことを言われました。でも再考を促されるたびに思うのは、「これは恋愛なんだ」ということです。優秀で有名な長男のイギリス。兄貴の向こうを張って遠い地で一旗あげた次男のオーストラリア。その近くにはいるものの、かなりマイペースな三男のニュージーランド。私は三男に恋をしました。

長男に憧れるでもなく、次男と張り合うでもなく、三男は分をわきまえた現実的な性格で、物静かながらも芯が強いタイプでもあります。跡取りでもないのでかなり自由の身で、長男と次男がお家のために足並みを揃えても、必要ないと思えば義理で合わせることもせず、はっきり「NO」と言って飄々としています。底力はあっても決して腕力には訴えず、こよなく自然と平和を愛し、隣人に対しても社交辞令ではなくフランクにフレンドリーに接します。長男と違って外見にはあまりこだわらず、ラフでカジュアルで、全般安上がりです。大金は持っていなくても自活できる生活力があり、自炊を始め家事全般は得意とするところです。

私はこんな三男にぞっこんです。ですからお見合いおばさんたちが、「早まる前に、一目でいいから次男に会っておいたら」と、薦めてくれても馬耳東風。ヌカに釘。ブタに真珠。柳に風・・・。次男がステキかどうかではなく、「三男ではない」ということで、私にとっては、フィンランドやチリぐらい縁のない相手なのです。お見合いだったら少しでも条件の良い人を探すのは常識で、「この人よりあの人の方が高所得」と言った、完全に相対評価の世界となりましょう。でも恋愛なら、それこそ「あなたしか見えない」状態の絶対評価のみなのです。

でも恋愛は往々にして他人から見ると、「なぜ、あんな相手?」ということの方が多く、人が羨むようなカップルというのは実は非常にまれではないでしょうか。いたとしても、そういう人たちは自分たちでも無理をしているのか、破局を迎えるケースが多いような気がします。ですから第三者と熱い想いを分かち合い、理解を得るのはなかなか難しいものなのです。特に人目を引く派手さもなく、田舎でこぢんまりとやっている三男坊と来ればライバルもほとんどいないことでしょう。

でも恋愛は片想い、遠距離などハードルが高ければ高いほど燃え上がるもので、今この二つに直面する私にとっては、体力をつけ、腰を落ち着け、じっくり臨むべく状況です。また、熱しやすければ冷めやすいのも世間の常識かもしれません。でも、浮いた恋愛から結婚へと手堅く進めれば、共白髪も夢ではありません。家をなし、次世代を育みながら、木や動物に囲まれて自然に近く暮らしていけるかもしれません。

良き妻となろう。良き母となろう。勤勉でつましく、優しく穏やかに暮らそう。素晴らしい環境に感謝しながら、それを守るべく自分にもできることを少しでも見つけてやっていこう。子供を愛し、隣人を愛し、争わず、話し合い、おごることなく、出し抜くことなく、ほどほどにやっていこう。三男の妻は質素ながらも自立した良妻賢母を目指します。「ニュージーランドにあってオーストラリアにないもの」が、少なくとも一つはあります。オーストラリアに行ったことのない私でも、これだけははっきりと言えます。それは「ニュージーランド」です。

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「マヨネーズ」  夫は三男です。最初に出会った時はまるで珍獣にでも会ったような気分でした。「三男ということは家に子供が3人以上いるってことで、確率からいえば5人きょうだいくらいなのかしら?」と考えると、私達の世代ではかなり珍しい存在で、少なくとも周りに「三男」なる人はいませんでした。「どうしても男の子を!」という親の希望で結果的に三女、四女としてこの世に生を受けた友人知人はいましたが・・・。夫の家は男三人だけで、姑の豪快、骨太子育ては、実際に二人の男の子を育てる身としてとっても参考になります。ピクニックに行く時には朝おにぎりを握っている暇がないので、電気釜のコンセントを引き抜いてそのまま車に積んでいってしまうというんですからゴーカイでしょう?その結果が、今日の我が夫です。「三匹の仔ぶた」の話は多少でき過ぎとしても、この3人(匹?)の描写はそれなりにうなづけるところがあります。ちなみに我が家の長男、温は絶対ワラの家を作るそうです。夫はもちろんレンガ派です。

西蘭みこと