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Vol.0054 「香港・生活編」 〜香港のイギリス人〜

香港にいる少し年配のイギリス人たちは植民地時代を謳歌してきた世代で、アジアへの造詣が深い一方、普段の生活は往々にして正統イギリス調だったりします。本国を遠く離れている上、旧植民地を転々と渡り歩いているような人も多く、"インド生まれのマレーシア育ち""香港在住30年""親子三代香港在住"などという人さえ、それほど珍しくありません。郷愁と憧憬がないまぜになっているのか、彼らは本場のイギリス人以上に格式を重んじ、男性はとにかくジェントルマンたらんとしているのが良く分かります。

かれらの仕事は政府関係から民間まで多種多様ながら、とにかく短めの髪型をびしっと整え、ポケットチーフをキメて、エグゼクティブとして颯爽と働きます。仕事の後は所属する会員制クラブに立ち寄り、仲間と立ったままでビールやジンを軽く、もしくは延々と飲みます。スターバックスなど間違っても行かずに飲むのはひたすらティー。家ではフィリピン人のメードにヨークシャー・プディングを添えたローストビーフの作り方を徹底的に仕込み、衛星放送でクリケットの試合なんかを見て過ごします。

彼らの生活に詳しい友人による「English(老)Gentleman in Hong Kong」の定義は以下の通り。
1.ビュッフェはきらい(給仕されないとイヤ)
2.ティッシュは持たない(鼻をかむのもハンカチ)
3.Neither、 Eitherは"ナイザー"、"アイザー"なのに、Dynastyは"ディナスティー"
4. アメリカに関しては持たない、買わない、つきあわないの"3ない主義"
5.どうしてもフランス人はきらい
6.会員制クラブ大好き
7.食事の前はドリンクタイム、食事の後はチーズタイム
8."アイスクリームはバニラ?それともチョコレート?"と聞かれた場合、必ず"バニラ、プリーズ"とプリーズを必ずつけないと怒る
9. 食事をちょっと残すのは"This is for Mr. Manner"なるそうで、お行儀悪くない
10. メガネはglassesじゃなくてspectacles、 movieはcinema
11.ティーバックでもポットを使う、レモンティーはティーではない

なかなかツボにはまってます。特に、3、4、11辺りがリアルです。個人的にはこれに、
12.エレベーターで女性と鉢合わせた時、彼らが手を差し伸べて「アフター ユー」というのを待たずに女性がスタスタ乗り込んでも、アジア的に一歩下がってもイヤ
13.会議やスピーチの時はメガネ(老眼鏡)のツルの端っこを舐め舐めポーズを決める
と、いうところを付け加えたいと思います。紳士なのですから、いつも堂々と大らかで、イカしたジョークで周りを盛り上げ、頼りになる男の中の男たらんとしているのですが、その分無理しているところもあり、身内に対してはかなり感情のアップダウンが激しい人間臭いところもあります。

面白いのはこうした人のかなりが、「いずれはオーストラリアへ行こうと思ってる」と口を揃えて言うことです。年齢からいって、ほとんどがリタイア先として選んでおり、「あそこに行ってまで働こうとは思わない」というところも共通しています。「リタイアなら本国に帰っては?」と思うのですが、「寒いし、暗い」、「海外にいて年金がない」、「階級社会が息苦しい」など、諸般の理由があって帰らないらしいのです。他にもタイだの地中海だのという人もいて、確率にするとかなりの人が帰るつもりがないようです。

こういう人たちと数少ない共通の話題である"移住"をテーマに話していると、「もう家は買ったのかい?」などと切り出され、なかなか会話が弾みません。向こうはゴルフ三昧、遊びまくりの永遠の休日が目の前に広がっており、こちらはどっぷり社会に根を下ろし、義務と責任の中で生きていこうと思っているのですから、当然です。

彼らが一様にニュージーランドを誉めるのも面白いところです。「素晴らしい国だ。英語も訛りが少ないし、アメリカナイズされ過ぎてないのがいい」。要は、イギリス的なものが残っていればいるほど良いようです。「じゃあ、どうしてオーストラリアなの?」と、素朴かつ意地悪な質問をしてみると、ジェントルマンたちの歯切れが急に悪くなり、「その〜。NZはちょっと静かすぎないかい?」と、全く説得力のない答え。それでも突っ込んで聞いてみると、@地味、A遠過ぎる、B(平等過ぎて)優越感にあまり浸れない…など、微妙〜〜なニュアンスの違いがあるようです。旧植民地でおいしい思いをしてきた人たちですから、急に"ただの地元民"になるのはお嫌なようです。その辺の煩悩がまったくない、"ただの日本人"は滑り止めなしの第一志望一本で、"ただの地元民"を目指します。

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「マヨネーズ」  夏休み前に息子たちが学校からもらってきたプリントに、「さよなら、PTA会長」という校長からのメッセージがありました。そのタイトルを見ただけで「行ったんだ〜」と、寂しいような、羨ましいような複雑な想いと、彼女の小柄な体とそこに収まりきれない溢れるパワー、小さな顔からこぼれるようだった笑顔が一瞬頭の中で交差しました。イギリス人の彼女とは学校行事で2回ほど一緒に仕事をしたことがあります。お互い昼間は仕事を持っていたので会社のメールで連絡を取り合っていたものです。

「彼女たちオーストラリアに移住するつもりで、最近、家まで衝動買いしてきたんですって」と、知り合いが教えてくれたのはかれこれ1年前のことでした。
校長のメッセージ通り、We wish Julie and her family every happiness and success in their new life!

西蘭みこと