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Vol.0059 「NZ編」 〜QTの馬鹿正直者〜

「冗談だろう?」。小さな紙切れを手にして、夫は信じられないという顔で私を見ています。その紙は駐車違反の切符でした。「だって違反したことになってしまって、違反してないことを証明できないんだから払うしかないじゃない」という私に、「こっちは全然悪くないんだから、こんなもの無視だよ〜」と、呆れ顔で言う夫。端から聞いていたら「いったい、どっちなの?」という押し問答が、人気のない朝のクイーンズタウンでしばし続きました。まだ空気がひんやりとしていて、罰金を払いに行くにしてもオフィスが開いてないのではないかというような時間です。

いつものことながら夫が折れて「勝手にすれば…」ということになり、しばらく時間を潰してから私は警察に罰金を払いにいきました。切符を切られた場所からは徒歩2分のところです。指定されたカウンターに行き、支払いを済ませレシートをもらって終了。正味2、3分だったでしょうか。最後に女性だった担当者に何となく"Thank you"と言ってしまいましたが、さすがに彼女は"You are welcome"とは言わず、無表情ながらも口の端をやや上げて固い会釈を返してくれました。それから、まだ憮然とした表情の夫とアロータウンへ。

これは93年の、今から9年前の話です。その日はクイーンズタウンからアロータウン、マウント・クックへと向かう予定だったため、いつもより早起きし、買い出しに出かけたのです。この辺は記憶が曖昧なのですが、スーパー付近のパーキングは本来、駐車券に穴を開けてフロントガラスに提示するか、機械から出てくる駐車券をもらうかするはずだったのですが、時間が早過ぎたため担当者がいないか、機械が動かないか、そんな理由で通常のことができませんでした。入り口の踏み切りのようなゲートは閉まっているものの、その脇には車が十分に出入りできるスペースがあり、目の前は1、2台しか停まっていないガランとしたパーキング。「どうせすぐだし・・」ということで、私達は脇から入って駐車してしまったのです。

そして戻って来た時には時すでに遅し。ワイパーに挟まって風にはためく小さな紙片。夫の主張は「払う意思がなかったのではなく、払いたくても払えなかったのだから、自分たちに落ち度はない。でもそれを警察に説明しても信じてもらえないだろうから、このままずらかろう。どうせレンタカーだし、旅行中の身だし」と、いうもの。私の主張は「払う意思があったことを証明できないのだから、こちらの落ち度と取られても仕方ない。それにレンタカー屋さんに連絡が入るのは目に見えていて、いずれどこかで払わなくてはならないんだろうから、ここは黙ってスッキリ払っていこう」というものでした。

金額ははっきりとは覚えていませんが、二人でちょっとしたディナーが食べられるくらいだったと記憶しています。でも私の主張はあくまでも表向きなものでした。それまでの1週間の旅行中、本当にどこに行っても良くしてもらい、キウイの親切さ、思いやり、正直で素朴ながら、非常に地に足のついた、まっとうな暮らし方を垣間見て、心ひそかに感銘を受けていただけに、「旅行者の身とは言え、この町で後ろめたいことをしたくはない」、というのが本音でした。こんなにみんなが折り目正しくやっている中、自分だけ要領良くその場をしのぎ、一食分のお金のためにトンズラしてしまうのが嫌だったのです。ちゃんと払ってモーテルでスパゲティーでも食べていた方がいい、と本気で思っていました。

あれから丸9年。私たちはクイーンズタウンを再訪しました。二人の子供の親として、数年後にはこの国で暮らしていることを夢見る身として。前回の訪問の時には想像もできなかった展開です。あの駐車場にも行ってみました。さすがに変わってましたが、だいたいの場所は同じで、当時を彷彿とさせるものがありました。「あの時、払っておいて良かった」。その場に立ち、まず心をかすめたのはそのことです。こうして戻って来ても心苦しいことは何一つなく、どっぷりと懐かしい思い出に浸れる幸せ。「馬鹿正直もワルくないナ」と、ちょっと自分を褒めたい気分でした。そして私たちは、その町でもう一人の馬鹿正直者に会いました。(つづく)

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「マヨネーズ」  55号の「半旗のもとで」を配信した後、いつもメールを下さる上、いろいろ移住関連のツボを教えて下さるM氏から、「メルマガの欄外を読んだあとに、ふと思い出したことがあります」と、いうお便りをいただきました。「NZで少し暮らしていて、ちょっと"えっ?"って思ったのは、携帯電話用のイエローページが存在することなんです。テレビのコマーシャルで急用の時に外出先の人にどうしても連絡が取りたい時に役に立ちますよって宣伝していました。しかし、こんな世の中(日本は特に)誰がわざわざ自分の携帯番号を公表するんだろうって驚きました」とのこと!

香港でも携帯の番号が受信者に認識されないようにわざわざ別料金を払っている人が珍しくありませんし、私も知人以外に携帯の番号を残すことはありません。ですからキウイたちのオープンさにはびっくりです。ワン切りなんてないんでしょうね。

イエローページと言えば前にも書きましたが、私はNZのどの町でもビーズショップがないかどうか、だいたいページをめくってみます。そうすると必ず目に入るのがエスコート・サービスの広告です。だいたいが「麗しのレディーがあなたのもとへ」という、クラシカルなコピーに、シルクハットをかぶった紳士の白黒のイラストなど、「いつの時代?」というデザイン。でも面白いのは「選りすぐった美男美女がうかがいます」という、女性用サービスも相当あることです。「本当に平等な国なんだなぁ〜」と、妙に感心。

西蘭みこと