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Vol.0075 「NZ編」 〜移住エージェント訪問記〜

朝、会社で仕事をしていると電話が鳴りました。出てみると夫です。「今日の昼メシ空いてる?ちょっと出れないかな?」「いいけど。」「例のエージェントに行こうかと思ってさ。じゃ、アポ入れちゃうね。場所と時間は後で連絡するよ。」受話器を置きながら夫の反応の速さに舌を巻きました。その前の日の晩、当日にニュージーランドの移住条件が一段と厳しくなったことを話し合いながら、「そのうち移住エージェントにでも行って話を聞いてみよう」と言っていたのですが、その翌日にもう"そのうち"になってしまっていたのです。

尋ねたエージェントはNZ移住を専門としているところで、オフィスはビジネス街のやや外れでしたが、足の便のいいところでした。コンサルタントは大柄で、大きな声で話す大陸出身風の中国人でした。まず簡単な自己紹介を求められるのかと思ったらそうでもなく、どう切り出したらいいのかわからないまま、移住に向けていくつかの方法を検討しているものの、どれが自分たちに合っていて、なおかつ手続きが簡単か今ひとつわからず・・・と、モゴモゴと説明し出すと、「今おたく達何歳?」と、唐突に聞かれました。

二人で年齢を言うと、今度は「まぁ、その英語なら大丈夫そうだな。会社でのポジションは?あとは100万NZドル(約6,000万円)用意できるか?」と聞かれました。「何たって投資移民が一番いい。まず、あっちに住む必要がないんだ。ここに残って仕事でも何でも今まで通りの生活を続けてればいいのさ。どうせHSBC(香港最大のイギリス系銀行)に香港ドルで預金してたってほとんどゼロ金利だろ?それだったらHSBCのオークランド支店に同じ金額を2年間預けときゃ、金利が6%ついて永住権もついてくる。リスクはないし元本保証だ。2年たって永住権が取れたらすぐにこっちに送金し直して事業にでも不動産にでも、好きなことに使えばいい」と、一気に言われました。

「申し込む時に100万NZドル相当の資産があるってことさえ証明できればいいんだ。金は後でいい。預金の残高証明、有価証券、年金、不動産だっていいのさ。ちゃんと鑑定士に査定してもらってればね。その合算でいい。申し込んで何だかんだと半年、認可が出て全額送金するまでに丸1年。つまり1年半の間に100万NZドルを用意できればいい。時間はたっぷりあるだろう?不動産を売ったって間に合う。元本は2年間は動かせないが入って来る金利は自由にできるから、こっちに送金し直してもいいんだ。ワルくない話だろう?」

こうして改めて説明されると、移民局のホームページを読むのよりグッと具体的で身近な感じがしてくるものです。6,000万円さえあれば、永住権がタダでついてくるという感覚も良くわかりました。しかもそれが金利6%で回るのであれば年間の受け取り利息はサックリ360万円。税引き後でもNZで暮らしていくには十分な金額なのでしょう。しかし、何よりも衝撃的だったのは、"移住しなくても移住できる"ということが最大のポイントであることです!私達のように"住むための移住"を真正面から考えている人間には、「いったい何のための永住権?」と、いうことになりますが、彼の自信満々の口ぶりから言って、いかに"移住しないこと"が大きなメリットかが良くわかりました。

絶好調の中国経済。今儲けずしていったい何時儲ける?というこのご時世に、順風満帆の事業をたたむなんて愚の骨頂。だったら、ゴロゴロ転がしているマンションの1、2軒でも売って現金を作ってオークランドに寝かせておけば・・・という発想なのでしょう。こうして申し込む人達の果たしてどれくらいが本当にNZに興味があるかは、はなはだ疑問です。ただ、あまりにも彼らにとってカンタンかつリスクがないまま、永住権がついてくるので「まぁ、コンサルタントに手数料(一律60万円)を払ってでも何かの時のために取っとくか?」と、いうぐらいの感覚の人が一定数いてもおかしくはなさそうです。

話を聞いているうちに、「これって"プレーするつもりはなくても軽井沢や北海道のゴルフ場の会員権でも買うか・・・"っていう、日本のバブル期に良くあった話と同じ感覚だナ」と思いました。前にザッと過去のNZ移住者統計に目を通した時、アジアは自国経済が好調な時に多数の移民を輩出する傾向があったので、その例で行けば、今の中国が移住者の一大供給地であっても不思議はないでしょう。投資はNZドル預金ですからゴルフ会員権のように大化けすることはないものの、潰れて紙くずになることもありません。

6%の利回りがほぼ確定しているのであれば、リスク見合いで考えると金融商品としてはかなり魅力的です。今の香港の不動産賃貸で年間6%の利回りを確保するのはかなり難しいので、プライベートバンカーだのファイナンシァルプランナーなる人達が運用先に悩む中国人のニューリッチに、「儲からないし、管理も面倒な香港のマンションを売ってNZ預金でもいかがですか?永住権もついてきますのでご子弟の留学先の一つにもなりますよ」などと薦めていても、それ自体は全く理に適ったことで、おかしくはないかもしれません。しかし問題は、投資家側にしてみればそれがただの"金融商品"の一つであっても、受け入れる側にしてみれば"国家政策"の一環だということです。(つづく)

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「マヨネーズ」  エージェントの話は本当に目からウロコの思いでした。NZ移住を目指す日本人達が専用サイトで意見を持ち寄り、あれこれノウハウを交換し合い、励まし慰め合っているのとは全く別の世界が広がっていました。手続き上では投資、一般技能等、種類の違いはあっても移住申請であることには変わりなく、取れる永住権にも違いはありません。いずれも年間受け入れ枠が決まっているのですから、競合が厳しくなっているのは明らかです。オフィスを出てから二人で出した結論は、"根本的に考え直そう"でした。

西蘭みこと