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Vol.0082 「NZ・生活編」 〜男の移住、女の移住〜

「おかしいな。扶養者控除とか、基礎控除に当たるものが見当たらないんだけど・・・」。せっせとビーズのアクセサリー作りに励んでいると、後ろでパソコンをのぞき込んでいる夫が、何か言っています。よくある西蘭家の夜のひと時。住宅事情の悪い香港で、4回目の引越しでやっと手に入れた二人の作業部屋。6畳間くらいの部屋でお互い背中を向け合って壁に向かい、私はビーズ、夫はパソコンと、それぞれの持ち場でおのおのの事に没頭し、コーヒーが入れば向き合って一息いれ、CDを聞いたりします。

「そういうのってどこの国にもあるんじゃない?」と、私が何の足しにもならない一般的な受け応えをすると、「そうだよな〜。おかしいよな〜」。夫は最近、ニュージーランドの税制に凝っています。きっかけはホームページの書き込みでした。既に移住されているジョーさんという方が税率について書き込んで下さったのが、自分の認識と違ったことから、いろいろ調べているうちに税の森の中に足を踏み入れてしまったようです。

NZは最高税率を39%とする累進課税です。夫はどうしたら一段下の税率になるのか、いろいろシュミレーションをしているようで、そのためには控除項目を把握しておかなくてはならないらしいのです。「でもさぁ、収入どころか仕事のあてもないのに節税対策って、まだちょっと早いんじゃない?」と、私がかなりはっきりとツボにハマることを言っても、夫は平気のへーさ。「こういうことはね、知っておいたに越したことはないんだよ。いざって言う時に慌てないだろう?」と、言いながら私の一言に腰を折られるでもなく、再び森へ出かけて行ってしまいました。

男の移住。こういうアプローチは私にとって全く想像を超えたものですが、夫にとってはまず手始めに抑えておきたいところのようです。「日本に行く時にどういうルートで、どの航空会社で行ったらいいか?」と、いう料金計算なども、私にとっては移住してから考えることであって、今は頭の片隅にすらありません。でも彼にとっては、香港経由のキャセイ航空だったら、(1)マイレージが溜まる(子供も)、(2)キャセイの"マルコポールクラブ"のメンバーシップを維持できる、(3)3年に一回は入境することが義務付けられている香港の永住権の維持もできる、と、一石三鳥でポイントが高いらしいのです。車の移送料やその手続きもまたしかり。

一方、女の移住。「香港での今日という日は二度と来ない」と心に決め、毎日を無駄にすることなく充実させ、同時に抜かりなく移住準備も進めたいという、主婦らしい現実的かつ盛りだくさんのアプローチが本道です。「ここより寒いところへ行くのだから、あまり持ってない冬服を買っていった方がいいかな。アウトレットだったらタダ同然のような値段だから、子供の分は少し大きめのまでまとめて買っておこうか?」「空気を抜けば思いっきり小さくなる羽毛布団はこっちで買っておくべきか?よくオーストラリア製のを見かけるからあっちで買えばいいのか?」と、冬場の今でこそ手に入るお買い得品に目を向けつつ、「基礎だけでもいいから善にも柔道を習わせておこう。日本人の先生からみっちり習えるのは今のうちかも」、「ネコの予防接種は?」、「今のうちにパーティーヘアの一つでも、通っている美容師さんに頼んで教えてもらえないだろうか?」などなど、パッチワークのモチーフのように細かいばらばらのことを同時進行で考えているような状態です。

このマクロとミクロの違い。冷静に考えれば、どちらの準備のいずれも、どうでもいいことなのかもしれません。税金は収入があってから考えればいいし、パーティーヘアができてもそんなものが必要となるシチュエーションがないかもしれません。でも、少しでも夢をかたちにするために「あーでもない、こーでもない」とやることは、延々と続く遠足の準備のようで、それを馬鹿馬鹿しいと感じない限りにおいてはそれなりに楽しく、心ときめくものです。夫ではないけれど、まさに「やっておいたに越したことはない」のです。

そして、税制であれ何であれ、夫が移住に向けて具体的に動き出してくれたことは私にとっては大きな大きな朗報です。最近は「2年待った甲斐があった♪」と思うことがよくあり、やっと自転車の両輪が一緒に動き始めたようです。これで補助輪の子供たちもそれなりに行く気になってくれれば勇気百倍です。全く新しい生活を始めることは新しい家を建てるのにも似ています。私が場所を決めた後、夫が柱を立て屋根だの壁だのとハードを作り、私が家具を揃えたりカーテンを下げたりとソフトを充実させていくのです。こうして更地だったところでまっさらな生活が始められたら・・・。暮れのバーゲンセールも、子供の柔道の付き添いも、移住準備の一環として心ウキウキ出かけていく昨今です。

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「マヨネーズ」  先日、ランチを買いにオフィスビル内の中華系ファストフードに行くと、「本日のメニュー」が"ニュージーランド産アワビ・ライス"でした。とっさに「PAUAだ!(NZでのアワビの呼称)」とわかりオーダーしました。オフィスに持ち帰って蓋を開けてみると、コンソメ風味のガーリックライスの上にちょこんと鎮座する小さなPAUA一個発見!調理済みとは言え4〜5センチのかなり小振りなもの。「あれ?NZでは12センチ以下のPAUAは採ってはいけなかったんじゃなかったっけ?」と思いながら、そんなサイズはまさに一口でペロリ。あとはひたすらライスという、けっこう辛いメニューでした。

その数日後。NZで違法にPAUAを採っては郵送で海外に送っていた中国系移民夫婦が4年と2年の実刑判決を受けました。年間110万NZドル相当も香港や中国の華南地方に郵送していたというのだから半端じゃありません。完全な組織ぐるみでしょう。私が食べたのもそのうちの一個だったのか?

西蘭みこと