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Vol.0092 「生活編」 〜DIM〜

子供の柔道のお迎えに行くと、父兄の一人のイギリス人が来ていました。私は彼女が大好きなので傍らにすっ飛んで行き、練習を見ながら話し始めました。「今週ブックウィークでしょう?金曜はコスチューム着せます?」と、私が学校の行事の話を切り出すと、彼女は「子供たちが張り切ってるから、やってあげないとね〜」と、いつものようにおっとりと、でもどこか凛とした品のある受け応え。"正しいイギリス人"のイメージそのままの人です。

「ブックウィーク」とは、"子供にとってもっと本を身近なものにしよう!"と学校が行っている催しで、一週間の最後には好きな本の主人公の格好をして登校し、みんなの前で本を紹介するのです。今まではお世辞にも盛り上がっているとは言いかねる企画だったのですが、それが去年から大ブレイク!理由は「ハリーポッター」と「ロード・オブ・ザ・リング」です。どちらも子供が主人公で映画も大ヒット!本に映画にキャラクターグッズにと、映画の公開前後はここ2年続けて子供たちがどっぷりはまっています。

前回の「ブックウィーク」には全校でハリーポッターが何百人、ハーマイオニー(女の子役)が何百人と登場したそうで、何も用意していかなかった息子は盛んに悔しがっていました。だから今回は「絶対、ハリーポッターやる!」と、二人とも早々に宣言していたのです。ところがそのコスチュームとなると家にある有り合わせものと言うわけにはいきません。かといってトイザらスで一式買ってしまうのも気乗りがせず、親としてどうするべきか考えあぐねているところでした。しかも、当日まであと4日・・・。

「キャラクターは何ですか?」と聞くと、「今回はロード・オブ・ザ・リングにするんですって」(いずこも同じらしい)。「コスチュームは買うんですか?」と、ちょっと遠慮がちに聞いてみると、「いいえぇ。手作りというほど立派なものではないけれど、何か用意するつもりよ」。その一言を聞いて、私も俄然ヤル気になりました。単純ながらその一言で背中を押され、「手作りにしよう!」と気持ちが固まりました。買ってしまうのは簡単だけど、たった1日のためにもったいないし、やはりどこか安易過ぎる気がするし、原作よりも映画の商業主義に乗せられてしまうようでしゃくでした。

練習が終わって、「さぁ、ハリーポッターのコスチューム探しに行こう!」と子供たちを急がせると、二人はトイザらスに直行かと思い込んで目がキラリ♪。ところが私が二人を連れて行ったのは、日本の100円ショップに当たる10ドルショップ(日本円で150円)でした。まず魔法使いなんだからほうきが要ります。探して見るとちゃ〜んと見つかりました。これで子供も身を乗り出してきました。ゲームのルールがわかったようです。

「メガネも探そう!」ということになり、これも黒ぶちのサングラスをゲット。プラスチックレンズは指で押せば簡単に外れました(さすが10ドル!)。マント(本物はローブ)は黒いはぎれかテーブルクロスでもあれば・・・と思ったのですが、これはさすがに見つからず、魔法の杖はさえ箸を茶色のマジックで塗ることにしました。翌日、私が黒い布を買ってきて夜中にミシンをかけ、マントもできあがり!ほうきもそのままでは感じが出ないのでスプレーペンキで、シルバーとゴールドに塗ってみました。二人とも"愛機"に名前を書き込んですっかりその気。原作でもほうきにはブランドがあります。

子供たちは大喜びで準備にいそしみました。結局、善がハリーポッターになり、温はハリーの学校の黒装束の先生、プロフェッサー・スネイプになることに。二人からもいろいろアイデアが出るし、スプレーペンキを塗っただけで尊敬されるし、ワイワイガヤガヤと楽しい夜が3晩続きました。その間、善はレンズを外したメガネを片時も離さず鼻に跡が付くほどでした。当日は私のリップペンシルで例の傷跡を額に描き込み、二人ともすっかりその気になって10ドルのほうきにまたがって登校していきました。さすがにほうきまで持ってきたのは全校で西蘭家だけだったそうです。

DIY、Do It Yourself。これが世の中の流れだとしたら、西蘭家のキーワードはDIM、Do It Myselfです。DIY用のキットは言ってみればプラモデル。作る過程を楽しむものであっても必要なものは過不足なく揃っていて、材料を何にするかで頭を悩ませたり、探したりする必要がありません。その代わり探し当てた時の感動もありません。誰が作っても出できあがりは五十歩百歩で大差はないでしょう。DIMならすべては材料探しから始まります。それもなるべく適したものを安く手に入れるという絶対のルールを守らなくてはいけません。「不便を楽しもう!」。お金があれば何でも手に入ってしまう生活だからこそ、あえてそう思い始めました。今回はそれが、少しは子供にも通じたようでした。

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「マヨネーズ」 日本人の手作り愛好度は世界的に見てもけっこう高いほうではないかと思います。香港のスワロ(フスキー)を中心としたビーズブームは1年以上前に完全に終わってしまいました。問屋街に行くとブームに乗って出てきたスワロしか置いていないような店では閑古鳥が鳴きまくっていて(つぶれてなければ)、気の毒なくらいですが、日本での人気は根強いようです。

イギリス人の奥さんの中にもそれに通じる手作り派がかなりいます。片言の英語しか通じない手芸屋で、苦労しながら毛糸やレースを選んでいるのに出くわすことがよくあります。そんな時、一人がかなり時間をかけて何かを選び、たった一人しかいない店員がその人にかかりきりになっていても、他の人は文句も言わず商品を見ながら自分の番を待っています。こういう手作り派同士の暗黙の礼儀正しさがとても好きです。

西蘭みこと