>"
  


Vol.0096 「NZ編」 〜西蘭杯ダービー 最終回〜

うららかな午後の陽射しが差し込む小部屋で、私達四人は円卓を囲んでいました。初老の女性は移住コンサルタント。もう一人の、中年も終盤にさしかかった男性はビジネスプランナー。私達をニュージーランドへと導いてくれるかもしれない人たちでした。そして私達夫婦。女性は老眼のツルの端を軽く噛みながらさかんに瞬きをしつつ、私達と手にした書類とをかわるがわる眺めては厳しい表情を浮かべています。男性は終始笑みを絶やさずにいるものの、その口から漏れる言葉は決して明るいものではありませんでした。

「つまり、大学出たての25、6歳の青二才を説得しなければならないのです。あなたたちのビジネスプランは移民局のそうした彼らにとっては明快なものとは言いがたく、もっとわかりやすいものを示す必要があるでしょう」と、ビジネスプランナー。「海外からの業務委託で、立ち上げの1ヵ月目から若干ながら黒字が出せる事業というだけではだめなんでしょうか?」と質問すると、「赤字でないのは結構ですが、内容が複雑でNZへの貢献というものが見出しにくいですね。この事業をここでやる必要性が感じられないのです。今お住まいの香港でなさる方がいいのでは?」

「契約も売上も海外で発生するのですから、NZにとっては資金の純流入になりませんか?納税もします。これらは貢献には相当しないのでしょうか?」と、なおも食い下がると、「貢献の内容が弱いですね。技術移転とか雇用拡大とか目に見えるものが必要です。あなたがたが生活していけるだけではダメなのです。かなり早い時期から人を採用して実績を作る必要があります。それができますか?」と聞かれましたが、人を雇うなど想定もしていませんでした。そこで、「人を雇うほど事業規模が大きくないので雇えば赤字になります。赤字企業が雇用拡大で貢献するのと、黒字企業が納税で貢献するのとでは、どちらが移民局からの評価の対象になるのでしょう?」という、究極の質問を返してみました。

「もちろん赤字でも人を採用することです」。その答えを前に私達の見解の相違は決定的になりました。資金力のない個人企業が赤字を垂れ流しながら厚い社会保障に守られた従業員を雇い続けていけば、どうなるかは火を見るより明らかです。仮にそれが評価されて永住権が取得できたとしてもいずれ手持ち資金が底をつきます。そうなれば即座に従業員を解雇し、私達自身も生活手当てのお世話になるか、尻尾を巻いて香港に戻るはめになるでしょう。自分達がその方法を選択するとは到底思えませんでした。ともあれ、こうした価値観の人たちにプランの作成を委ねる気持ちにはなれませんでした。例え彼らが言うように、移民局がそうした将来性の感じられないやり方を本当に評価するのだとしても・・・。

隣に座った夫の方をチラリと見てから私は手にした手帳を閉じました。「断ろう。この人たちと一緒にはやれない」、そう思った瞬間、ビジネスプランナーが「あなたがたのプランはリスキー過ぎる。私達はリスクがあるうちは引き受けられない」と、穏やな表情をさすがに曇らせながらもはっきりと意思表示をしました。断られたのです。私達の計画は移民局以前に、移住エージェントに受け入れられなかったのです。まったく意外な展開でした。しかし、この一言で2ヶ月近くかかった移住エージェント選びの西蘭杯ダービーは終わりました。ここで「キウイトラスト」自らが身を引いたことで、華々しい優勝というより、唯一最後まで完走した「オージースター」が杯を手にしました。

翌々日。すでに会って好印象だった「オージースター」と契約を結び、手数料の半額を払い込みました。直接会ってみて本当に良かったです。香港からのメールのやり取りでは、彼らの料金が他社の2倍近いことが気になっていたのですが、経験、規模といった目に見える実績以上に、前向きさ、柔軟さ、機敏さ、きめ細かさなど、直接話してみて改めて知るプロフェッショナリズムにそのわだかまりは消えました。しかも私はこのプロ集団を相手に、しっかり1割の値切きを引き出していたのですから、我なりに良くやったものです。

彼らは私達のビジネスプランをとても気に入ってくれました。それは契約を獲得せんがためのお追従ではなく、(1)黒字事業、(2)新しいビジネスモデル、(3)オーストラリアやNZ市場での同じモデルによる事業拡張の可能性、(4)夫だけでなく私の事業との2本立て申請の多様性と言った、「キウイトラスト」が評価してくれなかった点を強みとして挙げ、「非常に成功の可能性が高い明確なプラン」とまで言い切ってくれました。捨てる神あれば拾う神ありです。彼らのビジネスライクな対応は私達が香港で骨の髄まで慣れ親しんだものでもあり、打ち合わせでのポンポン弾む会話は「そうこなくっちゃ!」という、テンポのいいもの。相性はかなりいいと見ました。彼らと行こう!今度は私達が走り出す番です。

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 初めて「オージースター」のオフィスに行った帰り。「フジコだったよね〜♪」と息子二人はニコニコ。フジコとはルパン三世に出てくるセクシーでカッコいい峰不二子のことで、彼らは「カリオストロの城」を見て以来、すっかり不二子ファンに。以来、キレイなお気に入りのお姉さんを見つけるたびに、「フジコ〜♪」と言うようになり、テレビの天気予報のお姉さんでも、香港人でも白人でも、カッコいい美人はみなフジコ。

「オージースター」のコンサルタントもビジネスプランナーも、大柄の若い美人でまさにフジコのイメージにピッタリ。ビジネスプランナーは吸い込まれるような瞳の色で、打ち合わせをしながらもつい見とれてしまうほどの美人。コンサルタントはとってもフレンドリーなキウイの典型で、移民局にとっても連絡を取り合う相手としては申し分ないことでしょう。「やっぱりNZは女性なんじゃない?」という、夫の感想も説得力があり、西蘭家はこの不二子コンビに賭けます!

西蘭みこと