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Vol.0099 「NZ編」 〜へイデンとウィスキー〜

「何、お願いしたの?」 今年の元旦、暮らしている香港で中国廟に初詣した後、長男に何気なく聞いてみると、「えっ?」と、ちょっと戸惑ってから小さな声で、「ニュージーランドに行かなくていいようにって、たのんだの」と言いました。私に気兼ねしているところがいじらしく、彼の素直さが良く出ています。「へ〜。行きたくないんだ」と言うと、「そりゃそうだよ〜」と、口をとがらせました。香港生まれ、香港育ちの9歳にとって、香港は人生のすべてです。友達に囲まれた居心地のいいところから、何を好き好んで出て行く必要があるのでしょう?2年前に突然降って沸いた母親の思いつきに付き合わされるのは真っ平ごめん、というところでしょう。「なんで行かなきゃいけなの?行かないよ!」と言うのが、彼の一貫した主張です。

2年前、オークランドを車で流している時に突然ひらめいた「ここで暮らそう」という私の思いつきに、家族の中では当時3歳だった次男だけががかろうじて、「NZ好き」と消極的に賛同してくれましたが、夫は沈黙、長男は涙さえうかべて拒絶しました。私は待つことにしました。はやる気持ちを抑えるのに難儀しましたが、「家族全員で、みんなの意思で行こう!」と心に誓ったからです。移住となると各人の一生の問題です。子供であってもできることであれば、彼らの意思でついてきて欲しいと思いました。

そうであれば、行ってから多少苦労したり、がっかりすることがあっても、「自分で決めたんだから」と思えるかも知れませんが、「本当は来たくなかった」となると、気持ちに踏ん張りがきかず、「香港の方が良かった、帰りたい・・」と思い始めれば、限りない現実否定の輪に落ち込んでしまうことになるでしょう。例えそれが本心であっても、それに足を取られてしまうのではなく、それを乗り越えて行ってほしいのです。NZでならその過程で多少苦しんでもそれが報われ、必ず貴いものを学べるはずだと信じています。

同時に私も、「行ってから絶対に後悔はさせない」と腹をくくりました。それは母親として最大限のリスクを負う覚悟と、子供たちへの最大限の愛情の証でもあります。「なぜ住み慣れた場所を離れなくてはいけないのか今はわからないかもしれないけど、いつか大きくなったら、大人になってからでもいいから、"やっぱり来てよかった"と想ってくれればいい」と、思いながら、家族の気持ちが一つになってくるのをじっと待っています。

北端の町カイタイアは地図で見るよりもはるかに小さな町でした。スーパーが一軒、ガソリンスタンドが一軒。街道沿いにモーテルこそあるものの、すぐに家並みも途切れてしまうような町でした。適当に見つけたモーテルは広い中庭にトランポリンとブランコがあり子供たちが即決しました。チェックインをして夕食の用意に取りかかると、夫と子供二人は中庭の芝の上でタッチラグビーを始めました。一面がガラス張りになった正面からそれが良く見え、すぐに10歳くらいのキウイの男の子二人が出てきて傍らでラグビーボールのパスを始めました。ボールがあちこち行き交ううちに、自然に大きな5人の輪ができました。男の子達はモーテルのオーナーの息子とその友達でした。

なかなか暮れない夏の夕刻。いつまでも響く笑い声。夫が部屋に戻っても子供たちはカードを交換しあったりベイブレードをしたり、トランポリンをしたり芝生に座りこんだり、長い影を引きながら遊んでいました。旅先にしてはかなり力を入れて作ったつもりの夕食もそこそこに、8時を回って外が暗くなり始めても再び飛び出して行き、カーテンを閉めずにいる私達の部屋の灯りを頼りに再びラグビーが始まりた。「ボールが見えるんだろうか」という暗闇の中、けっきょく9時過ぎまで遊んでいました。

べッドに入った長男は枕元に座った私に、「ママ、友達になったよ。あの子たち同じ学校に行ってるんだって。ヘイデンがモーテルの子で、ウィスキーは今日お泊りに来たんだよ。ウィスキーはマオリなんだって。初めてマオリの友達できたね」と、嬉しそうに言い、高ぶった気分がこちらにまで伝わってきました。「良かったね」と答えると、「NZでも友達できるね」と、小さく言いました。「そうよ、どこにいたって友達ってできるわよ、欲しいと思えばね。最初はドキドキするけどそれは大人も同じよ」と言うと、「ほんと?」とちょっと驚いていました。

彼なりに初めての友達に自信と手応えを感じたのでしょう。ヘイデンとウィスキーは一つのブレークスルーでした。「ここに住む」ということが現実味を帯びてくる中で得た小さな自信が、大きな心の支えになってくれるよう願って止みません。さすがに眠そうに、「マオリ語も教えてもらったよ。え〜っと、なんだっけ。あれ?あいさつの言葉なんだけど、思い出せないな〜。日本語も教えたんだよ。え〜っと、ちょっと待って思い出すから・・・」と言いながら、そのまま眠りに落ちてしまいました。満ち足りた寝顔を見つめながら、灯りを落とした部屋の中、私も静かな手応えを感じていました。

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「マヨネーズ」 温は日本語の遊戯王カードとヘイデンたちがもっていた英語のドラゴンボールのカードを全部で24枚も取り替えてきました。彼らは遊戯王というキャラクターをぼんやり知っていたらしく、おもちゃ屋も見当たらない小さな町での日本語のレアカードとの交換に大喜び。息子は息子でドラゴンボールという往年のキャラクターをほとんど知らないながらも、交換してきた英語カードはえらく垢抜けたデザインですっかりご満悦。双方がお宝ゲットとなりました。ちなみにキウイの二人は、初めて食べたおせんべいとこんにゃくゼリーを気に入ってくれましたが、意外にもフルーツ味のこんにゃくゼリーよりもおせんべいの方が大うけで、「こんなおいしいスナック食べたことない!」とのこと♪

西蘭みこと