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Vol.0121 「生活編」 〜夢へのドライブ〜

4月中旬のある夕刻。近所のお寺に参拝に行った帰り道。目の前を"・・・・自動車学校"と横書きした、教習所の送迎バスがスーッと横切って行きました。誰も乗っていない、こうこうと明かりが灯ったマイクロバスで、暮れなずんだ視界を輝きながら過ぎて行きました。ありきたりの光景でしたが、なぜか「きれいだな」と思った次の瞬間、降ってきたのか湧いてきたのかはわかりませんが、突然、「免許をとろう!」という考えが頭の中に広がっていました。

その瞬間まで免許なんてまったく考えてもいなかったので、晴天の霹靂でした。どうして自分がそんなことを思いついたのか説明のしようがありません。しかし、私はこうした、いつ何時起きるとも知れない"ひらめき"をとても大切にしています。自分の狭い思考では及ぶことのできない、まったく新しい可能性の扉を見せてくれるからです。扉を開くか開かないかは本人の意思ですが、私はたいてい開くようにして"ひらめき"が運んできてくれる可能性と変化に感謝しながら、楽しむことにしています。

一緒に歩いていた夫に、「免許とろうかな?」と唐突ながら素直に言うと、「いいかもね。日本ならオートマ専用もあるし・・」と、目からウロコのことを言ってくれました。「そうか、その手があったか!」。輝くバスに拍車をかけるような啓示的な一言。私は"ひらめき"が現実のものとなることを確信しました。偶然にもそれから1週間で職を辞すことになり、退職後2日で現在通っている教習所に入校しました。ゴールデンウィークに重なってしまったので実質的に教習が始まったのは休み明けの7日でしたが、22日に仮免許を取得し23日からは路上教習に。あれからほぼ1ヶ月が経過していました。

夫は私が免許をとって運転を始めた日には、「もう二度と逢えない」くらいに思っているので、疑心暗鬼もいいところ。「教習の長さは"年齢×時間"だから、キミの場合41時間は覚悟しといた方がいいよ」と、盛んに吹き込まれました。事情にまったく疎い私は、規定で行けば仮免までが12時間、本免までが19時間と計31時間なので、「10時間もオーバーするのか〜」と腹をくくり、「新型肺炎(SARS)の収束と免許がとれるのと、どっちが先だろう?」と考えたりもしていました。免許のせいで「安全宣言」が出ても、子供ともども日本にいなければならなくなったら本末転倒です。

しかし、実際に乗ってみるとオートマのラクなこと、ラクなこと!実は私は10年前の一時期にシンガポールで教習所に通っていたことがあったのです。その時は夫の香港転勤が決まり途中で投げ出してしまいましたが、筆記試験を通って路上にも出ていました(記憶に間違いなければ、筆記試験にさえ受かればかなり早くから路上に出られました)。でも、その時はマニュアル車だったので半クラッチだ、坂道発進だと、何がなんだかわからないまま教習だけがどんどん進んでいってしまいました。しかも、乗るのはいつも仕事の後の夜なので視界が狭い割には歩行者も多く、あまり楽しい思い出のないまま、お金と時間だけを無駄にして終ってしまったのです。

ところが今回、10年前のあのお金と時間が無駄ではなかったことに気付きました。まず、運転する感覚を多少なりとも覚えていました。シンガポールの時はキーを入れてエンジンがかかり、車体が揺れただけでドキッとしましたが、さすがに今回はそれはありませんでした。その上、マニュアルの面倒さを知っているだけにオートマにひたすら感謝で、坂道発進でも(バックしない♪)、ブレーキを踏んだり離したりしてゆるゆる徐行していても(正式にはクリープ現象と言うんだそうですが)、とっても得した気分です。

「運転って楽しい!」。今まで一度も思ったことがなかったのですが、今回初めてそう思いました。ニュージーランドに移住しなければ、一生免許をとることはなかったでしょう。私は免許がないので仕方なく公共交通機関を利用していたのではなく、好きでバスや電車に乗っていました。駅に行ったり乗り換えたりすることは面倒ではなく、クルマというあんなに大きな物に、かなりの場合でたった一人が乗り、地球の身を削った貴重なエネルギーを使い、排気ガスを撒き散らしながら目的地に行くという行為が非常に傲慢なものに思えて性に合わず、ただの一回を除いて運転に興味を持ったことはありませんでした。

バスだってガソリンを使い排ガスを出しますが、多数の人がある程度の不便を分かち合いながら利用している分、有意義だと考えていました。しかし、NZでは不便を分かち合おうにも仲間がいないのです。オークランド市内でも主要住宅地で終バスが5時台に出るところがあると聞き、覚悟を決めました。それでも「免許は移住後に現地で・・・」と思っていたので、日本での教習所通いなどこれっぽっちも考えていませんでした。

しかし、夕暮れに教習所のバスが目の前を通り過ぎ、まとまった退職金も入り、時間に余裕のある主婦となって完全に条件が揃いました。免許は移住後の生活に欠かせないだけでなく、かなわなかった20年前のある夢をもう一度蘇らせることにもなるかもしれません。「免許をとろう」。私は夢へのドライブに向かって再びハンドルを握りました(つづく)。

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「マヨネーズ」 先日、「マジで十頭身?」と思われるスタイル抜群の黒人のおニイさんを見かけました。「さすがイケてる〜」と信号の反対側から見ていると、彼は手にした飲み物をさかんに飲んでいます。「こういう人はやっぱりペプシツイストなのかな?」と思うと、頭の中ではあのCMソングが勝手に流れ始めました。ところが、信号を渡りながらすれ違いざまにチラリと見えた彼が手にした物は、なんとリポビタンD!!イケてても疲れてる?

西蘭みこと