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Vol.0127 「生活編」 〜靴下文化〜

4月以降、20年ぶりに日本で暮らしていますが、いくら国を離れていた期間が長いとはいえ、日本人としての勝手はわかっているつもりでした。ところが普段の生活の中で、「えっ!?」という瞬間によく出くわします。今回はそんな中で、足元のお話。ある日、子供の学校へ行った時のことです。お母さん方が玄関口でスリッパに履き替えているのですが、当然スリッパは持参品。そんなことを考えてもみなかった私は、もちろん手ぶら。仕方なくミュールを脱ぐと、今度は素足という問題が・・・。他のお母さんは一人の例外もなく、全員が靴下かストッキングを履いた上でスリッパを履いています。

ところが、こちらは5月に入ってから靴下というものを履いた記憶がなく、ましてやストッキングなど4月下旬の叔父の葬式以来、一度も履いていませんでした。連日素足にミュールでどこへでも行き、自動車教習所ではジョギングシューズに履き替えますが、それとて素足です。仕方がないので裸足のまま階段を上がって教室まで行きましたが、傍目には相当マヌケだったことでしょう!本人は「ディスカバー・ジャパン(古いっ)!」と割り切っているせいか、平気のへーさですが・・・。これも経験、勉強!

それから一週間ほどした教習所での応急救護の実習時間。3時間ブッ通しの集中授業で、カーペットを敷いた部屋での靴を脱いでの訓練でした。私以外の参加した男女計9人、平均年齢20歳全員が靴下を履いており、裸足はここでも私一人でした。ここまでみんなが履いていると、履いていないのがなんだかとっても未開に見えるから不思議です。4月以来の素足暮らしで、「足もやっといい色に焼けてきたな〜♪」と思っていた矢先でしたが、靴下軍団にグルッと取り囲まれると、そんなものには何の価値もないように思えてきます。

極めつけだったのが、叔父の四十九日の法要。最後にストッキングを履いてから早くも1ヶ月半が経ってしまったことになります。その日は今年初めて30度を超えた超夏日。葬儀ではさすがに黒のストッキングを履いたものの、「この暑さだし、告別式でもないし」と、姑の視線を気にしつつも素足にパンプスを決行。ところが、お寺に着くといきなり靴を脱ぐ羽目に。「しまった!」と思ったものの、後の祭。禅寺で全体に簡素なせいか備え付けのスリッパもなく、みんな喪服で正装なのに靴下履きでうろうろしています。国際的には、その姿は相当情けないものに映ると思われますが、ここ日本では決してそうではないらしいのです。

その上こちらは、足指にカラフルなハート型スパンコールを塗った入魂の(?)ペディキュア状態で、喪服(これもいい加減で、オフィス用だった黒の「DKNY」のスーツ)なのに足だけ超派手という、はちゃめちゃ☆ 親類縁者と挨拶して深々と頭を下げるたびに、相手の視線が下に行き「ギョッ」としているのがわかるものの、どうすることもできず・・・(困)。その場に夫がいなかったのは、彼の名誉のためにはせめてもの救いか?(祈)そのまま、正座してお経を聞き、お焼香をあげ、会食後は歓談し、やっと靴が履けたのは4時間後でした。親戚からの「非常識!」の謗りは免れないかもしれませんが、当の叔父はかつて「VAN」のデザイナーだったシャレ者。ユルしてくれていることでしょう。波阿弥陀仏。

しかし、日本人ってこんなに靴下履いてましたっけ? まわりが「なんで裸足なの?」と首をひねるのと同様に、こちらも「なんで靴下なの?」と「?」マークがいっぱい!特に女性の場合、靴下を履くとファッションが非常に限定されてしまいます。コットンの靴下が似合う服装となれば、やおらスポーティーなカジュアル系でボーダーのシャツにジーンズといった具合に、着るものを逆指定されてしまいます。スカートを履くとなると、相当野暮ったくなることに完全に目をつむるか、小花柄に黒の靴下といったセンスで勝負か、昔流行ったハマトラ風ハイソックスで無難にまとめるかなど、選択肢は限られてきます。

そしてストッキング。この季節ですから、黒よりも圧倒的に肌色となりますが、これが普段見慣れていない私の目から見ると、かなり暑苦しそうです。OL風の人で、服はイマドキの軽めのレイヤード・スタイルなのに、足元は"肌色ストッキング+靴"という重量級がけっこう珍しくありません。勤務先でミュールやヘタをすればバックバンドのサンダルさえ禁止されているのかもしれませんが、なんとなく自主的に履いている気配もあり、トップの軽さとボトムの重さがアンバランスなのは、なんとも残念。しかし、そうまでしても履きたい肌色ストッキングには、私にはわからない魅力があるのでしょう。

でもその魅力が"ボロ隠し"であったら、日本女性の脚にとってはゆゆしきことかもしれません。健康そうに見える色でサポート力の強いタイプを選べば、誰でもほっそり脚美人・・ということになり、蚊に刺された跡も、カサカサのかかとも、たるんだ膝もごまかせます。でも緊張感のなくなった脚が美しく進化することを止めてしまったら? 確か村上春樹の小説に、パンプスを脱いだ女性が相手の男性に脚を差し出し、「皮のいい香りがするでしょう?」と言うシーンがあったように記憶していますが、靴下やストッキングを履いていたらあのシーンはあり得ません。これから夏に向けて脱いでみません?明日から・・・。

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「マヨネーズ」 香港の家ではスリッパなどはかず、フローリングの床をヒタヒタ歩いていました(ちなみに夫は万年スリッパ族)。さすがに今は居候の身、スリッパを履いて毎日ぺタペタやってます。まあ、慣れてしまえば別に苦にはならないのですが、香港に帰ったら、やはりその日から裸足でしょう。しかし、素足を通すとなると足の裏は固くなるし、肌もかさつくし、多少のお手入れはMUSTですが、今はNZ産の「レインフォレスト」から出ているフットスクラブを愛用してます。さすが"裸足の国"製?けっこういいですよ♪

西蘭みこと