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Vol.0128 「生活編」 〜パープルな日々〜

今の私たちの、日本での暮らしを色に例えるなら、"パープル"でしょう。"バラ色"と言えるほど舞い上がったものでも、"ブルー"と言うほど沈んだものでもありません。その両方を掛け合わせた紫が、まさに今の気分です。臨時の日本住まいは、強い緊張を強いられた新型肺炎(SARS)から逃れることができたばかりか、姑の全面的な協力のもと、子供たちが通う学校からも好意的にしてもらったことで、とても上手くいっています。この点は"バラ色"に近い幸運です。

その一方、夫婦としては結婚以来、子供は生まれて初めて、家族が別れて暮らすという事態となりました。最初のうちこそは、「ニュージーランドに移住した後、パパが長期出張に行く時はこんな感じなんだね」と、子供たちと話したりしていましたが、さすがに2ヶ月になると、そんな"ごっこ"も新鮮味を失い、寂しさは募る一方です。子供も週末に、「パパ何してるかな?」「ネコと遊んでるんじゃない?」「ご飯食べたかな?」「またパスタじゃない?」などと、気にしているようです。この辺はややもすれば"ブルー"入ってもおかしくないところでしょう。

それでも日常というものはそんな胸の内などお構いなく、巨大なブルドーザーが通るようにすべてを均しながら過ぎていくものです。感傷に浸っている間もなく、銀行口座からは自動引き落としでどんどんお金が引き落とされ、子供は膝小僧を真っ黒にして怒涛のように帰ってきます。私は私で筆記計4回、技能2回の運転免許試験に追われ、子供の学校から毎日送られてくる大量のプリントや連絡帳の記載に目を通しています。「嬉しさはすぐ遠のき、寂しさはすぐ慣れる」というのが、2ヶ月の別居生活で得た教訓です。

想いのほどを平らかにした"パープル"な日々の中では、夫婦のメールも"業務連絡"状態です。「5月の香港からのIDDは約280分話して約1,600円。日本からは数分で1,000円を越えていたと思う。ということで、緊急以外、日本からのIDDは使わないように」、と夫から下線つきのメールが来るかと思えば、こちらも「持って来て欲しい物リスト:水筒(黒のスヌーピー)、子供用のはっぴ(ベッドの下の引き出し)、私の水着(バリで着てたやつ)・・・」など、ずらずら箇条書きにしたメールを送ったりしています。"業務"は子供の学校、納税、年金、家賃交渉、ネコの予防接種・糖尿病治療・ニュージーランドへの移送手続き、薬の処方など多岐にわたり、引きも切らずにあるのです。

やっと"業務"が終って、メールが"私用"に切り替わると、「メニューは2日続きのほうれん草のバター炒め、冷奴、煮豆、めかぶ、ジャガイモとたまねぎの味噌汁+海鮮チャーハン。チャーハンは食べきれなかったので、今夜もチャーハン、煮豆、めかぶ+残った味噌汁・・・。今夜は料理する必要がないので一安心」と、いきなり正直になる夫。「すごい豪華じゃない?移住したら一週間に一晩は作ってね」と、現実的な返事を送る妻。「冷奴は豆腐を切るだけ。煮豆は出来合いのもの。めかぶはパックの封をはがすだけ。品数豊富で豪華に見えるけど・・・寂しい晩飯です。世の単身生活者の食事はこんなものなのかな?」と、本音半分、けん制半分の即レス。"パープル"な応酬が続きます。

今回の日本滞在がSARS回避のためのみであるならば、香港がWHO(世界保健機関)の「感染地域」から抜け出した現在(6月23日、とうとう指定解除!)帰る時期に来ています。しかし、私たちはあえて"バラ色"のはずの家族団らんの時間を先送りして、"パープル"な時間を引き延ばすことに決めました。その理由は子供たちです。1学期を丸々過ごして通信簿を受け取ることで、自分たちの日本滞在がどう評価されたのかを知ることは大きな励みになるのではないかと思ったからです。香港での学校生活の一時期を失ったのと引き換えに、人生最初で最後となるかもしれない日本での生活体験という貴重な経験を得られたことは、非常に有意義なことではないかと考えています。

そうであるなら、私は私で限られた日本での時間を徹底的に使い倒そうと腹をくくりました。運転免許をとることはもちろん、サラリーママだった今まではしたくてもできなかった平日の子育て、学校行事や地域活動への参加、姑とのヨメ暮らし、平日の習い事や映画鑑賞、ごぶさた続きだった友人の訪問、隣人や地元商店街を含めたご近所付き合いなど、時間が許す限りいろいろなことをしてみることにしました。自動車教習所を卒業した現在、ぜひ何かボランティア活動にも参加したいと思っています。

新しい環境で心細い中、まごつきながらも周囲に支えられつつ、なんとか生活を軌道に乗せた経験は、遅かれ早かれ移住後のNZで繰り返されることでしょう。子供たちもこの2ヶ月間で身体も気持ちもすっかりたくましくなり、自分の名前以外の平仮名が読めなかった善はカタカナや漢字にまで挑戦中で、温はクラスの班の班長を務めるまでになりました。二人とも柔道とラグビーが続けられないとなると、ほとんど縁のなかったサッカーを習い始め、大いに楽しんでいます。こうして家族が離れ離れに暮らす切ない時間は、日増しに色を濃くするあじさいのように深い深い紫色に染まっていきます。

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「マヨネーズ」 なんとか本免技能試験にパスしました。ここだけの話ですが、二車線の右折で直進車の前に飛び出してしまったのに、なぜか受かりました。隣で検定員が思いっきり補助ブレーキを踏んでいましたが、かろうじて私の方が先に踏んだのでOKだったらしいです。あの瞬間、「あ〜あ、ここで検定中止か」と思ったものの、続けられたのでビックリでした。2ヶ月近く通った教習所を卒業し、今日は警察機関である免許センターで最後の筆記試験を受けます。これに受かれば、昼頃には免許取り立てホヤホヤのドライバー?

西蘭みこと