>"
  


Vol.0132 「生活編」 〜星に願いを〜

「ボクたち、これ持ってく?」と、白衣を着た優しそうな中年の女性に2メートル近い見事な笹を差し出され、きょとんとして突っ立っている息子たち。傍らの私が慌てて立ち上がり、「どうも、ありがとうございます」と頭を下げると、彼女はニッコリしながら、「差し上げるわ。お近くでしょう?」と言って、切り立てらしい青々とした笹を手渡してくれました。

その日は一週間違いで中耳炎になった息子二人を連れ、耳鼻科に行ったのです。長男・温は完治していたものの、鼓膜の内側に水が残ってしまった次男・善に薬が処方されたため、通りすがりの薬局に立ち寄ると今しも七夕の飾りつけを終えたところでした。その最初のお客さんとして息子二人も短冊をもらい、それぞれが願い事をしました。善が「おうちにおはながいっぱいさきますように」と書いたのを、花好きの薬剤師がとても喜んでくれ、余っている笹を差し上げましょうと申し出てくれたのでした。

海外で暮らす私たちはできる限り日本の伝統行事をするようにしているので、七夕はだいたい毎年、どこからか笹を調達してきては飾り付けをし、それなりに過ごしています。でも、今年は居候の身。七夕など考えることもなく、7月を迎えようとしていました。そんな折に見ず知らずの方から思いがけずに笹をいただくことになり、息子以上に私の方が大喜びでした。実のところ、住まいは"お近く"どころか、そこから電車に乗らなければ帰れなかったのですが、私は笹欲しさに曖昧に答え、けっきょくそれを持って駅まで15分歩き、改札を抜け、家まで持ち帰りました。問題はどこに飾るかです。

考えた結果、マンション入り口のソファのある待ち合わせ場所に置かせてもらうよう、管理人さんと交渉することにしました。「そういうのは、やったことがないからね〜」としぶる彼女を、「そこをなんとか・・・」と持ち込み、最終的に何か不都合があったら撤去するということで承諾してもらいました。翌日はマンション内の息子の友だちに声をかけ、みんなでいっせいに短冊書き。あっという間に30枚以上の短冊が集まりました。その間、私も色紙で飾りを作ったり飾ったりと大忙し。通りがかりの何人かの住人も短冊を書いてくれたので、あっという間に枝がしなるほど色とりどりの紙が飾られました。

夕方、子供たちが引き上げた後、「ご自由にどうぞ」という置き手紙とともに、残った短冊10枚以上とサインペンを残しておいたら、翌朝にはきれいになくなっていました。上々の"売れ行き"です。大人の字の短冊が増え、持ち帰ってきれいな絵を描き込んでくれた子もいて、管理人さんも清掃の方も「立派になったね」と好意的に見てくれるようになりました。最終的に、笹はみんなの願いを乗せ、七夕当日まで飾られることになりました。

その間、大活躍だったのが6歳の善です。通りがかりの住人相手に大人にでも子供にでも「ねぇ、ねぇ。たなばた、しない?」と、ほとんどナンパ状態で短冊を差し出し、「こんなにたくさん用意してもらって、ワルいわね〜」と労をねぎらってくれる大人には、「いいの、いいの。これママがぜ〜んぶ、100円ショップで買ってきたんだから」と得意になって内情を暴露し、自分もしっかり「いちえんでかいしゃがつくれますように(=テレビで1円で会社が作れると知ってから、元手少なく大きく儲けようという夢がふくらんでいるらしいのです。さすが香港生まれ!)」と願掛けをし、新しい短冊がなくなれば補給しに行き、飾り付けが落ちてきてないか朝な夕なに見回りに行きと、まさに七夕隊長!

では、みんなのお願いの一部から。「いぬがかいたい」(小1)、「たまがわのたまちゃんっていわれませんように」(小1のたまえちゃん)、「彼女ができますように」(高校生)、「ポケモン博士になりたい」(小4)、「今年こそ良い年になりますように」(大人)、「金正日が戦争しないように。戦争反対」(小4)、「おばけやしきにいかなくていいように」(幼稚園児)、「友だち百人つくるぞ〜」(小3)、「みんながしなないように」(小1)、「かんごふさんになりたい」(幼稚園児)、「みんなが病気になりませんように。マンション平和!」(大人)

一方の西蘭家のお願い。「ジラーチがもらえますように」(イラスト付きで温)、「かんじがかけますように」と「せんそうがなくなりますように」(善)、「お菓子作りがうまくなりますように」(みこと)など、サラッと書いてる一方で、「早くニュージーランドに行けますように!」とイラスト入りの本音も・・・。善のヒット作は、「パパがいまほんこんにいるから、はい炎になりますように」! どうも「なりませんように」と書こうとして失敗してしまったようで、「炎」だけ漢字で書けたのは高学年の友だちに聞いたからだそうです。

でも、一番の願いは誰かがきれいな平仮名で書いてくれた、「みんなのねがいがかないますように!」、これに尽きます。七夕が終ったら短冊を近くの川に流しに行き、ぜひ成就させたいものです。管理人さんは早くも、「来年も続けましょう」と言ってくれているそうで、本当にみんなの願いが長く、長く続いて、いつか本当にかないますように!

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 なんと3週連続で子供が病気になりました。まず、温が中耳炎になり、翌週には学校のプールに入った善もなり、その翌週には二人が同時に高熱を出し寝込んでしまいました。それがどういう訳か、すべて木曜日!ところが、今いる松戸市は開業医が木曜定休なので、近所の医者はみな閉まっています。そこで仕方なく、熱が38度以上ある子供たちを電車に乗せ、隣の柏市(水曜定休)で診てもらうはめに。中耳炎は自宅ではどうにもならず、症状が重かった善の時は駅から約15分の道のりをおぶって連れていきました。日本にいる間に木曜日はあと2回!どうか何も起きませんように。姑と二人、「発熱が香港の新型肺炎(SARS)の"安全宣言"が出てからで良かった〜」とホッ〜とひと息。

西蘭みこと