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Vol.0135 「生活編」 〜うさぎ目〜

「右前方にやわらかそうなタンポポ発見♪ 葉っぱの数も多いしまるでほうれん草!」 「おっ、こっちにはトウのたっていないハルジョン!茎も細いし葉の繁りも申し分ない。多分、根っこまでイケるだろう」 「クローバーは食べでがないけど味はまあまあかな?固そうだけどオオバコはけっこう侮れない味」 「ドクダミは匂いが今ひとつながら、ツユクサよりはまし。でも、できたら他の物が食べたいなぁ」 「ハコベは小さくて食べるのがめんどうだけど味はワルくない。見た目はいいのに、味は今ひとつなのがヨモギなんだよね〜」

と、心の中でブツブツ言いながらの草むしりは、日本で暮らすようになって以来の毎朝の日課です。家の近所の幼稚園にはうさぎが15匹おり、ペットの猫2匹を香港に残してきた寂しさを紛らわすかのように、自然と毎朝うさぎ小屋に向かうようになりました。草は彼らへの差し入れで、好みはこの3ヶ月間の反応で覚えました。花や野菜を育てるための草むしりではないので、取るのは彼らの好物ばかり。今ではすっかり、うさぎの目になり代わり、辺りを睥睨しています。

マンション裏の日当たりのいい傾斜地はちょっとした"家庭菜園"状態で、茫々の雑草の収穫時期を見計らい、取り尽くさないように有効利用しています。近くのお寺の境内の草はほとんどがうさぎの好物なので、参道脇など私が歩いたあとはペンペン草も生えないくらい、きれいさっぱり雑草がなくなってしまいました。

大好物の「タンポポサラダ」の日は、20〜30本摘んでいくのでアクで指先が真っ黒になります。でも、大人の小指ほどにもなる根っこまでかじっているところをみると、よほどおいしいらしいのです。ハルジョンも同じで、葉はもちろん花やつぼみまできれいに片付けてしまいます。この他にいろいろな草をまぜた「ガーデンサラダ」、野菜くずを集めた、量より質の「ベジサラダ」などのメニューがあります。

でも、なんといっても、彼らが心待ちにしている(はずな)のは、八百屋さんから段ボールで届く大ご馳走の「キャベツサラダ」でしょう!「キャベツ50円」などという特売日には、店先にキャベツが山積みになり、お客さんの中には外側の固い葉を捨てていく人もいます。それが溜まると段ボール一箱で、キャベツ3、4個の重さになるのですが、それを箱ごともらってくるのです。どうせ「可燃ゴミ」として出されるだけの商品価値のないものなので、顔なじみの八百屋さんは快く分けてくれます。

夕食の買い物に牛乳2本、卵、自分たち用の50円のキャベツなどを買い込んだ上に、ズシリと重い段ボールを持つとさすがに歯を食いしばります。でも、そうそうあることでもないので、「箱の底が抜けませんように」と祈りながら、10分ほどの道のりを急ぎます。いつだったか、もらった箱が雨を含んでかなり柔らかくなっており、「道の真中でキャベツをぶちまけてしまったらどうしよう」と、箱の強度と自分の腕力のせめぎ合いもありました。

日中でも道路脇で"ご馳走"を見つけると、常備しているスーパーのビニール袋を取り出し、おもむろに草むしりを始めるホットパンツにサングラス、ヒール10センチのミュールを履いた怪し気な人は、近所でかなり頻繁に目撃されているはずです。大人は見て見ぬふりですが、さすが子供は正直!最初の頃は登校途中の小学生に、「あの〜。何してるんですか?」と聞かれたり、「善くんのママ、草ってとってもいいの?お花はダメしょう?」と声をかけられることもありました。今では定着したのか、声をかけられることもありません。

うさぎたちは最初こそ無表情で、金網越しに差し入れられる餌を大人しくも警戒しながら食べていましたが、すぐにパブロフのうさぎに!「おっはよ〜」と声をかけると、お尻をフリフリ全員がすっ飛んでくるようになりました。後ろ足で立ち、ピーターラビット・ポーズで鼻をヒクヒクさせながら待っているのもいます。おいしそうな餌だと前足でお腹の下にしまい込み、仲間に食べさせないようにするのもいます。十匹十色で性格はさまざま。最初のうちこそ全員に個性的な名前をつけようとしていましたが、ある日行ってみると、巣穴の中に何かうごめくものが!な〜んと子うさぎが4匹生まれていたのです。

「かわいい〜♪」と、ぬいぐるみのようなう子供にさっそく名前をつけているうち、生まれるわ生まれるわで、今では子供だけで15匹になってしまい、5匹目以降の名前は全員「以下省略」。一応、オスとメスは小屋が分けてあるのですが、幼稚園の先生いわく「いつの間にかオスの一匹が脱走していた」そうで、彼はつかの間のハーレムを楽しみ、この春のベビーブームの引き金となったようです。週末は幼稚園も休みで餌がなくなり、様子を見に行くと他のうさぎの頭を踏んづけてでも全員が金網に突進してきます。特に授乳中らしい母うさぎは必死で、こちらも母親の身、ついつい同情の目に・・。そんな物言わぬ、愛くるしい彼らとの日々もあと2日。お別れにキャベツ丸ごと一個を差し入れるとしましょう。

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「マヨネーズ」 最初の子うさぎ4匹のうちの1匹は、善が「とーしば」と命名しました。「なんで"とーしば"なの?」と、あまりにらしくない名前だったので聞いてみると、「テレビでさ、"この番組はいつもがんばる"とーしば"のていきょうがなんとか"って言ってるでしょう?いつもがんばっててエラいから・・」。ということは、"とーしば"は「サザエさん」の"東芝"ってこと? 「あれって"いつもがんばる"だったっけ?」という、固いことはさて置き、かくして子うさぎはこのらしからぬ名前に決定。ところが、この「とーしばクン」、脱走の名人で小屋を飛び出しては、先生に竹ぼうきで追われて小屋に逃げ帰るというピーターラビット系。お父さんの血を濃く引きついでいるようです。

西蘭みこと