>"
  


Vol.0152 「生活編」 〜主婦のぬかるみ その2〜

日本から香港に戻り、本格的な専業主婦となったばかりの8月初旬は、生活のリズムがつかめず苦労しました。やたらに動き回っている割には家事が進まず、焦ったり凹んだりもしました。「あれをしよう」、「これをしてあげよう」という主婦としての思い入れが、更に首を絞める結果になっていました。しかし、「やるべきこと」と「それ以上」の部分を混同しないようにし、妻としても母としても高望みをせず、できないことは潔くあきらめることで、なんとか愛情のぬかるみで溺れてしまうことを免れました。

体勢を整えた私がまずしたことは、「休日宣言」です。主婦だからって
365日働いているわけにはいきません。「ON」と「OFF」のメリハリは絶対に必要です。「ストレスをためないことは家族にとっても良いこと」と確信し、夫に対して、「あたし、土日は休むわね。食事の用意と洗濯だけはするから、そっちは掃除機かけるのと食器洗いお願い」と言いわたしました。彼は「オレも休みなんだけど」と反射的に言い、いかにも憤慨した表情。「そうよ、あたしも子供もみんな休みよ」と言うと、今度は返事がありませんでした。「掃除・洗濯・料理」という家事の三本柱が抑えてあれば、2日ぐらいシーツ交換、風呂洗い、トイレ掃除をしなくても死にはしません。現に今までも日曜日はお手伝いさんが休みだったので、料理と掃除は自分たちでやってきたのですから、それに土曜が加わるだけの話です。

しかし、人間誰しも、いったんは「自分がやるべきことではない」と思い込んだことをやるのには抵抗を感じ、面倒で損した気分になるものです。夫の不満顔はまさにそれを代弁していました。しかし、彼は本来、大のきれい好きで、掃除機を持たせたら床ばかりでなく、先端のブラシをとっかえひっかえ、壁、テレビの裏や家電、パソコン周り、ドア、靴箱、棚という棚など、限りなく3D(立体的)にかけまくる質です。そのノリで食器洗いも非常に丁寧です。これまでほぼ毎週末、それらを自主的にやってきた人なのに、いざ自分の担当と宣言されるととても負担に感じるようでした。でも、私は気にしないことにしました。ここで折れてしまうと、再びぬかるみにはまってしまうからです。

次にしたことは、「自己管理制度」の導入です。料理はすべて私が作りますが、テーブルセッティング(というほど大袈裟なものではありませんが、ランチョンマットを敷いたり、箸と箸置き、飲み物の用意など)は子供たちに、食後に自分の食器を下げることは各人に任せることにしました。また、洗った洗濯物もそれぞれのベッドの上にまとめて置くものの、しまわないことにしました。当然ながら、お手伝いさんはこれらすべてをやってくれていたので、「それぐらい、いいじゃ〜ん」と、3人にいっせいに不平を言われましたが、あえて心を鬼にして断りました。この「それぐらい」が曲者なのです。「ちょっと、やってあげよう」という思いやりで深みにはまり、けっきょく自分を追い込んでしまうのです。

こちらが「ちょっと、やってあげてる」つもりでいても、恒常化すればやってない時には即座に文句がきます。これでは本来の思いがまったく通じていないことになってしまいます。より愛情深い水準で日常が安定してしまうと、「もっと、もっと」と要求のハードルが見上げる高さになり、それに応えないと、「気が利かない」という逆切れ状態にさえなりかねません。「一日中、家にいるんだからさ〜」という夫の何気ない一言を聞くたびに、こちらの余力や時間配分が恐ろしく誤解されていることを思い知らされます。明白な線引きと相互信頼感の構築は火急の急務です。

三番目は「勤務時間」の設定です。これは学校が始まったことで朝6時半から夜10時までとなり、これ以上の「サービス残業」はお断りとしました。これでも十分な長時間労働です。いくら3時までは子供がいないとはいえ、朝から寝転がって本を読んでいるわけにもいきません。「鬼のいぬ間の洗濯」の格言通り、邪魔が入らない一人の時こそ家事の効率が最大限に上がるため、この時間帯を活かさない手はないのです。とは言っても個人で外出できる唯一の時間でもあり、週2日は10〜3時までを自由時間とし、一日各2時間の食事時間と2時間の休憩からなる計4時間を「勤務時間」から除いても、実労は週55.5時間、一日平均11時間にものぼります。休憩を3時間とっても、しょせんは10時間労働です。

「サービス残業お断り」と宣言しつつも、時間外でも洗濯物が溜まっていれば洗濯機を回し、お弁当の仕込みを軽くすませ・・・など、ついつい「サービス残業」に手を染めてしまうのは、世のサラリーマンと一緒です。「明日の仕事を少しでも効率良くしてラクしよう・・」と始めたことが、かえって自分の許容量の間口を広げてしまい、ラクするどころか負担の重さに苦しむことになってしまうのです。愛情のぬかるみの次は、無意識に最大効率を追求してしまうサラリーママ根性との闘いが待っていました。

***********************************************************************************

「マヨネーズ」 主婦になって周りの人から、「退屈でしょう?」とか「ヒマになったでしょう?」と言われるようになりましたが、正直言って、気持ちの上では兼業主婦時代より忙しく感じます。一番苦しいのは精神的な拘束時間が長いことです。以前も通勤時間を含め、1日の平均拘束時間は12時間でしたが、仕事が終わってしまえばまったくフリーで、子供と遊ぼうが、習い事をしようが、夜出かけようが自由自在、勝手気ままなものでした。

しかし、今は1日最大3時間の休憩時間があったとしても、しょせん15〜30分ずつの小刻みな休みで、コーヒー片手にインターネットをのぞいたり、新聞に目を通したりで終わってしまいます。とてもじっくり腰をすえて本を読んだり、ビーズを広げたりできる状況ではありません。夜パソコンに向かう時間も以前はきっかり10時だったのですが、最近はそれもおぼつかなくなってきました。これでも無給。本当に尊いオシゴトです。

西蘭みこと