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Vol.0167 「NZ・生活編」 〜壊れた風景〜

今年2月のニュージーランド旅行。北島最南端に近い古い町ケリケリから、ベイ・オブ・プレンティー観光の拠点であるパイヒアに行く道すがらは、延々と続く田園風景でした。豊かな土地らしくさまざまな作物が植えられ、それを区切る立派な生垣もきちんと手入れがされていました。丹精こめて作物を育てている感じが、通りすがりの者にも見て取れる美しい眺めでした。

こうした農家は道路沿いに「トマトあります」などと、手書きの看板を出していることが多く、立ち寄って新鮮な野菜を買うことができます。野菜の他にも果物やハーブ、卵を売るところもあり、かなりのものが手に入るようでした。ただし、ジャガイモ一袋となると10キロ単位で、旅行者にはとても手が出ません。そのため、ぜひ農家の様子を見てみたいと思いながらも露骨な冷やかしは申し訳なく、看板でクルマを停めることはありませんでした。

気になったのは看板のかなりに、「GE FREE(遺伝子組み換えなし)」という文字が添えられていたことです。始めのうちこそ、「やっだ〜。なんでこんなこと書いてあるの?NZって組み換えが解禁されてないんだから、GEフリーに決まってるのにね〜。キウイがそれを知らない訳ないだろうから、外国人向けに書いてるってこと?じゃあ、ジャガイモ10キロ買ってく外国人がいるのかなぁ?」と、ケラケラ笑いながら車窓の外を眺めていた私ですが、行けども行けども「GE FREE」とあるのを見るにつけ、次第に言葉少なになりました。

ここまで組み換えがないことを強調されると、まるでこの国のどこかに組み替え作物があるかのような錯覚に陥ってきたのです。「まさか!今はまだ禁止期間中で、禁止が解除されないかもという期待まであるのに・・・」と、頭を振りつつも、「でも、禁止されているのは商品作物。ひょっとしたらこの辺に農業試験場かなんかがあって、そこでは組み替えが始まってるとか?」と、だんだん不安が募ってきました。そう思って改めて辺りを見回すと、豊かで美しく見えた田園風景がややもすれば近代的に整備された工場のようにも見えてきました。不安を掻き立てるように、いつまでも続く「GE FREE」の文字。しまいには耐えられなくなって、目を閉じてしまいました。

NZ政府はこの10月29日をもって、遺伝子組み換え商品作物の栽培禁止猶予期間を打ち切りました。10月に入ってからは猶予期間の延長を求めて、「グリーンピース」などの環境保護団体や野党「緑の党」を中心に大規模な抗議行動が各地で繰り広げられ、オークランドで1万5,000人、ウエリントンやクライストチャーチでも2,000人近いデモが行われました。しかし、反対勢力の声に揺るぐことなく、政府は29日夜12時をもって猶予を解除し、翌30日からは組み替え作物の栽培申請を受け付け始めました。

個人的には、今回の解禁は無念でなりません。一度解いてしまえば元には戻れないことゆえ、農業国NZにとっては非常に深刻な決定で、経済効率の優先という大義名分のためにあまりにも大きなリスクを背負い込んだと思っています。解禁までの道のりでは、「コーンゲート事件」に代表されるようなこの国らしからぬ不透明部分も浮き彫りになりました。奇しくもこの時期に、イギリスで行われた4年間にわたる組み換え作物に対する過去最大の調査結果が発表され、「組み換え作物の悪影響は想像以上に大きい」という衝撃的な報告がなされたばかりです。

組み換え作物がどのような影響を及ぼすかが段々と解明されてくる中で、害虫を寄せ付けず、速く大きくなる強い品種を作り、最大の経済効果を上げるという夢のような話がもたらす悪夢が、現実のものとなってきています。今までは人体への影響ばかりに目が行きがちでしたが、問題はそれに留まらず、田園という場所を共有するあらゆる生態系へと及ぶことが明確になってきました。また、組み替えていない作物との「共棲」も机上の空論で、鳥や虫が双方の種子や花粉を混ぜ合わせてしまえば、棲み分けなどあり得なくなります。ミツバチでさえ、組み換えた花粉を26キロも運べるという報告がなされています。

私たちは安くて大量の「食」を求めるがあまり、どんどん危険なものを口にするようになっています。一つ一つの食品は各国の安全基準を満たしているのでしょうが、それらを同時に、半永久的に採り続けた時の影響は、誰にもわかっていません。世界の潮流が農薬漬けの野菜、抗生物質漬けの家畜や養殖魚に加え、遺伝子組み換えというレベルにまで行き着く中、組み換え作物に慎重姿勢を保っていたNZさえも、経済という「化け物」に扉を開いたのです。豊かな田園風景が虫も鳥も来ない、壊れた風景へと一変していく日があの美しい島にも来るのかもしれません。(つづく)

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「マヨネーズ」 長男は通っている学校の5年生全クラスの中で、3番目に入る背高のっぽです。「大きくていいわね〜。ご主人も大きいの?」とか、「羨ましいわ。ラグビーをやらせると背が伸びるかしら?」など、人から背の高さを褒められることもしばしばです。しかし、親としては内心複雑です。「この背の高さが食肉に残留している成長促進剤の影響だとしたら?」と思うと、足もすくむ思いです。私も夫も子供時代に食べ物に困ったことはなく、息子が私たちをはるかに上回る成長を遂げていることを、単純に「食べ物が良くなったから」では説明できないと危惧しています。日本にいた時、今まで5年生で始めていた性教育を今年は4年生からに繰り上げるという話を聞きました。理由は3年生で生理になる子が年々増えているからだそうです。これもまた簡単には説明できない現象です。

西蘭みこと