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Vol.0169 「生活編」 〜おいしいピザの見つけ方〜

今日、今まで食べた中で、一番おいしいピザを食べました。どこで、どうやって見つけたのかお話ししましょう。話が気に入ったら、あなたもいつか、信じられないくらいおいしいピザを、見つけられるかもしれませんよ。

今日は息子の学校の「ピザの日」でした。おかあさんたちが子どもにピザを売る日です。おべんとうのかわりに、外でピザが食べられるので、子どもたちは大よろこび。朝から、みんなで大さわぎ。大きな箱に入ったピザが70枚とどきました。1枚が12切れに分かれているので、ピザは全部で840切れ!これを10人のおかあさんが昼休みの間に売るのですから、みんな大いそがし。1切れは15ドル(日本のお金で200円)です。

昼休みが始まると、子どもたちはお金を持ってテーブルの前にズラリと並びました。みんなワクワク。売っているおかあさんたちまでウキウキ。でも、お金を持ってくるのを忘れたり、お金が足りなかったりで、買えない子もいました。かわいそうですが、おなかをすかせて並んでいるみんなに、早く売ってあげなければならず、何もしてあげられませんでした。すると、ある3年生の女の子が1切れ買った後で、「半分に切ってくれませんか?」と言いました。そばにいたお金を忘れてしまった友だちに、分けてあげようとしたのです。「もちろん、いいわよ。」と切ってあげると、2人は仲良くどこかへ行ってしまいました。

休み時間が終わりに近づき、残ったピザは2枚だけになりました。ほとんどの子は食べ終わって遊んでいます。その時、4年生の女の子3人がやって来ました。「1まい15ドルよ。何切れほしい?」と聞くと、女の子たちは顔を見合わせて、クスクス笑いました。「お金忘れちゃったの?」と聞くと、かみの毛を三つあみにしたインド人の子が小さくうなずきました。「あなたたちも?」と聞いてみると、2人の中国人の女の子もだまってうなずきました。3人ともとってもかわいらしい子でした。「食べてみたい?」と言うと、みんないっしょにうなずきます。この子たちはみんながおいしそうにピザを食べているのを見て、ほしくなって見に来たのでしょう。

「そう。じゃ、わたしが買ってあげるわ。」と言うと、3人ともびっくりして目を丸くしました。そして、みんないっしょに頭をふりました。「いらないの?」と聞くと、インド人の子が「ママにしかられる。」と言いました。「ママに言わなくてもいいじゃない。言ってもしかられないわよ、きっと。」と答えると、帽子をかぶった中国人の子が、「外で食べちゃいけないし。」と言いました。「きょうはとくべつな日。みんなだって外で食べてたじゃない。わたしも買うつもりだったから、いっしょに食べましょう!」と言うと、ちょっと太った中国人の子が、「困ったな〜。どうしよう。」と、言いました。

話している間にもピザはどんどん売れて、とうとう最後の1枚、12切れになってしまいました。「なくなっちゃうわよ。」と言うと、3人はピザの方をチラリと見ました。「食べてみる気になった?」と聞くと、やっぱり頭をふります。「あのね、ここでピザを買うと、お金は学校に行くの。学校は集めたお金でコンピューターや本を買うのよ。だからピザを食べると学校を助けることになるの。わかる? わたし1人じゃ1切れしか食べられないけど、あなたたちも食べればもっと学校を助けられるでしょう?だから、ピザを食べるのは良いことなのよ。」 わたしの説明を、女の子たちは一生けんめい聞いています。

「でも、わたしのお金じゃないから。」と、インド人の女の子が心配そうに言いました。「わたしが知らない人だから、心配なんでしょう?」と聞いてみると、3人ともうなずきました。「あなたたちがわたしを知らないなんて、どうでもいいことなの。知らない人から助けてもらうことだってあるのよ。そういう時は、助けてもらえばいいの。あなたたちは子どもなんだから心配したり、はずかしがったりする必要はぜんぜんないのよ。ほら、こうやって話してるだけで、知り合いになったじゃない?」と言うと、やっと3人が笑いました。

そのうち、残りのピザはとうとう3切れになりました。わたしは急いでお金を出すと2切れ買い、1切れを半分ずつに切って4切れにしました。そして小さな1切れを女の子にわたそうとすると、3人はむねの前で手をふりながら後ろにさがりました。「食べてごらん。これでほんとうにおしまいよ。」と言うと、帽子をかぶった中国人の子がやっと手を伸ばしてきました。もう2切れをとって、太った中国人とインド人の子に出すと、中国人の子がはずかしそうに受け取りました。最後に、ずっと手を後ろにかくしていたインド人の子が、おそるおそる手を出してピザを取り、聞こえないくらい小さな声で「ありがとう」と言うと、3人はぱっとかけ出して、すぐに見えなくなってしまいました。

わたしは残った1切れを一口食べてみました。ふつうのピザなのに、今まで食べたこともない、おいしい、おいしい味がしました。女の子たちがどんなにピザを買いたかったか、知らない人に買ってもらうことがどんなにはずかしかったか、わたしにはよくわかります。だから、勇気を出してピザを受け取ってくれたことが、とてもうれしかったのです。女の子たちと分けたとくべつなピザは、ほんとうに今までたべた中で一番おいしいピザでした。

誰だかわからない3人のかわいい女の子へ

ピザがほしかったのに、いつもおうちの人から、「知らない人から物をもらってはいけないよ。」と言われている約束を守ろうとしたあなたたちは、りっぱでしたよ。今日はその約束をやぶって、わたしのピザをもらってくれてありがとう。あなたたちのおかげで、わたしは一つ良いことができました。そして、今まで食べた中で、一番おいしいピザを食べることができました。わたしはこのピザの味を忘れません。

あなたたちもピザがおいしかったら、それをずっと覚えていてね。そして、おとなになった時、困っている子どもがいたら助けてあげて。子どもなんだから、ほんとうはおとなだって、困った時には知らない人に助けてもらっていいの。1人で生きていける人なんていないんだから。はずかしがることも、がまんすることもないのよ。うれしかったら、同じことを誰かにしてあげれば、それでいいの。おとなになる前だって、お友だちや自分より小さい子を助けることができるかもしれないね。もしそうしてくれたら、わたしはあなたたちとピザを分けて食べたことを、ほんとうにうれしく、ほこりに思います。

また、会えるといいね。

ピザ売りのおばさんより

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「マヨネーズ」 今回は1人でも多くの子どもに読んで欲しくて、日本で言えば小学校4年生の長男・温が読める範囲内まで漢字を減らし、なるべく平易に書いてみました(これが結構、難しかった!)。長さも通常の1.5倍あります。女の子たちは恥らいのある、本当にかわいらしい子たちでした。家庭での躾の良さがしのばれます。だからこそ、彼女たちが一歩踏み出してくれた勇気を称えたかったのです。

今の世の中は、小さいうちから人に"借り"を作らないように躾けられるあまり、"貸し""借り"の観念ばかりが植え付けられ、気がつくと、困っている人に手を差し伸べる方法も、困った時に人から素直に善意を受ける方法も、わからなくなってしまっているように思います。彼女たちの戸惑いと躊躇はまさにその反映でしょう。恵まれた環境できちんと育てられていればいるほど、迷いは深くなるのかもしれません。助けてもらって感激した覚えがなければ、人に同じことをするのは難しいと思います。他人と距離を置いているうちに、かかわり方がわからなくなり、しまいには無関心になってしまっては、正しい躾の元も子もありません。

親として、子どもに対しては引き続き、「人に迷惑をかけない」という意味で"借り"を作らないよう躾ける一方で、困っている人には"貸し"ではなく、見返りを一切期待しない"手助け"ができるようにも導いていきたいと思います。誰かを助けられた充足感と、それができる自分の恵まれた立場を知りうるだけでも、十分な「見返り」なのです。助けられた相手が同じことを繰り返してくれたら、踏み出した勇気は大きな実を結ぶはずです。そして、その果実は誰かのものではなく、みんなで分かち合って味わうものなのです。今日、私が味わったおいしいピザのように。さあ、これからもおいしいピザを見つけていきましょう!

西蘭みこと