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Vol.0193 「生活編」 〜42年目の空〜

今日は私と長男・温の誕生日です。この年になると、誕生日が待ち遠しいということもありませんが、今年はなぜか楽しみでした。「息子の背中」にも書きましたが、32歳の誕生日に出産して以来、スクスク育つのは息子ばかりで、自分の成長は完全に止まったと思ってきました。年を重ねている実感がなくなり、成長を具体的に反映する上昇志向のようなものがきれいさっぱりなくなってしまったのです。物心ついた時から、多分、誰の中にでもあるであろう「一年生より二年生」、「高校より大学」、「初級より中級」、「アマよりプロ」といった憑き物のような価値観が、ポロリと落ちてしまったのです。

42歳になったことで、成長が止まってから丸10年が過ぎました。しかし、気力も体力も、今の方が10年前より充実しているかもしれません。「よく言うよ。気力はまだしも体力は言い過ぎでしょう?」と、シラける向きもあるでしょうが、多分、走れと言われたら今の方がずっと速く長く走れるでしょうし、ここ数年は平均睡眠時間が5時間を切ったままでも普通に暮らせるようになりました。10年前もそれ以前の20代も、週末に寝溜めをしないことには身体がもちませんでした。食事の量もめっきり少なく、ほぼ菜食となり、時には定食が食べきれないほどです。自分でも不思議な"疲れない、眠くない、お腹がすかない"の"三ナイ状態"こそ、成長していない証拠のような気がしています。

生活は上昇志向がなくなった分、水平志向が強まり、次男・善が幼稚園に通い始めると、自分の興味の赴くままに横へ横へと視野が広がっていきました。ほとんどはビーズ・アクセサリーだの、ガラス細工だのという手作り趣味の延長でしたが、その一方で働く女性中心の勉強会を主催したり、ベトナムの女の子の里親になったり、息子ばかりでなくその友達も誘って、子供向けにやれバーベキューだ、パーティーだ、プールだ、潮干狩りだ、芋掘りだと、いろいろ企画しては子供や働くママに接する機会を増やしてきました。

水平志向ですから、上手くなってカネを儲けるとか、数をこなして出世するという類の話とは無縁です。何でも場数を踏めば多少手際がよくはなりますが、所詮は上へとつながるものではなく、家事や育児同様、同じことが繰り返されていくばかりです。しかし、私は結果を求めたり、見返りを期待したりせずに何かに没頭できることを心から楽しみ、時間をかけて作ったものができあがった時の達成感、子供たちの弾けた笑顔に十分報われてきました。

しかし、ここに来て再び上を見始めた気がします。それは20代の頃のような、物質的向上を代弁する「より良い生活のための上昇」とはまったく別の、ひたすら精神的なものです。抽象的に言えば「より良く生きるための上昇」です。具体的にはカネや社会的地位といった世俗的なものとはまったく関係なく、他者や社会に対して自分がどこまでかかわり、貢献していけるのか、それによって人生がどれくらい豊かになるのかを問うものとでも言いましょうか?

40年以上生きてきて、「情けは人のためならず」ということを痛感しています。情けとは人のためのようでありながら、実は自分のためのものなのです。私にとっての世の中とは、不思議な緩い銅の環で、情けという情熱を通すといつか必ず自分にもその温かさが戻ってくるものです。その妙は人智を超えており、私は仕組みを追求するよりも、それを事実として受け止め、ぬくもりを伝える銅の環を少しずつ広げては誰でも、気軽に、片手でもいいからつかめるように・・・と、真剣に考えてきました。温かさを感じたら、後はカンタン。類が友を呼び、環はゆっくりと大きくなっていくものです。

そして今になって、その環が緩やかな螺旋を描きながら、つかんでいる私達も気づかないほどの勾配で、少しずつ少しずつ上に向かって行ったらいいなと、思い始めました。これこそが42歳になった私が目指す、「より良く生きるための上昇」です。かつての私と同じように、子育てと仕事の板ばさみの中で迷い悩みながらも必死で働いているサラリーママの気持ちが手に取るようにわかるので、大切な友人でもある彼女らの少しでもお役に立てるよう、息子を含め子供たちが感受性豊かな人の痛みがわかる大人に育つよう、まずは自分にできる事を手始めに、想いを銅の環に伝えてみたいと思います。

しかし、視線だけは螺旋の行く手のはるかかなたの高みに注ぎ、世界の子供たちが大人のエゴの狭間で貴い命を失わないよう、平均寿命が40歳そこそこの世界で一番命の短い国シオラレオネの子供たちが天寿をまっとうできるよう、世界のあちこちで起きている無為な殺し合いを一日でも早く止め、これ以上の環境破壊を食い止めて、先祖から受け継いだように子孫にも安全で美しい地球を残していけるよう、勇気と信頼、愛と平和、感動と感謝を生きていこうと思っています。冬晴れに見上げるのは、42年目の空。

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「マヨネーズ」 32歳で何もかも止まったといっても一つだけ裏切者がありました。それは肌です。元々がトラブル続きのコンビネ肌(男性陣へ:オイリー部分と乾燥部分が混在した肌のことです)だった上、長年の化粧とオフィス冷房によるウルトラ乾燥もあって確実に加齢していました。しかし、これさえも2年前に友人の紹介で使い始めた漢方化粧品と化粧を完全に止めてしまったお陰で克服してしまいました!10年分の加齢は確実に取り返せたと思います。今のコンディションは難儀した30代よりいいかもしれません。

肩こり、腰痛、冷えとも無縁で、視力も変わっていません。今年早々、念願だった10キロを走り、ヨガにも出会いました。夢が一つずつかなう40代は楽しい!

<写真:ニュージーランド北島ワイタンギにて>

西蘭みこと