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Vol.0202 「NZ・生活編」 〜1キロの暮らし〜

クルマでニュージーランドを旅していると、制限速度が2種類しかないことに気付くことでしょう。無料の高速道路の「時速100キロ」と、市街地の「時速50キロ」です。地図を見ながら、「あと30キロぐらいで○○の町に着くと思うけど。」とナビゲーターをしていると、砂漠の中のオアシスさながら、見渡す限りの牧場の向こうに何やら建物が見えてきます。次に「時速50キロ」と赤ちゃんが眠っている絵の「静かに」の表示が目に入り、それに従うやいなや教会の尖塔、学校、ガソリンスタンド、テイクアウェイ、バー、雑貨屋などが一気に目に入り、次の瞬間には背後に遠のいていきます。

その間、せいぜい数分、1、2分のこともしばしばです。時速50キロで1分なら距離にしてせいぜい1キロでしょう。今まで何千キロも旅していながら、いまだに「今のが○○の町だったんだろうか?」と慌てて"町らしきもの"を振り返ったり、どうしても用がある場合はUターンしてでも、いったん逃したらその先数百キロはお目にかかれない町に立ち寄ることもあります。こういう町では1キロの沿道にすべてが収まり、逆に言えば、そこにないものは諦めるしかありません。

レストラン、銀行、ショッピングモールどころかスーパーマーケットさえ見当たらない町も多々あります。商店は雑貨屋が一軒のみ。ビデオのレンタルショップ、アンティーク・ショップとは名ばかりのリサイクル・ショップ、カフェでもあれば、「ラッキー♪」というところでしょう。モノで溢れかえっている大都会から来た者には、「これだけでどうやって暮らしてるんだろう?」と、不安を覚えるほどかもしれません。

しかし、私はこういう町に出会うと、「これでも暮らしていけるんだなぁ。」と妙に感動し、潔い良いほどのモノのなさが羨ましくなります。パン屋がないからパンを焼き、八百屋がないから家庭菜園を作り、花屋がないから花を植え、野花を愛で、玉子や果物が欲しければ農場を訪ね、本屋がないから図書館に行き、洋服屋や靴屋がないから身につけるものを大切にし、自分でミシンを踏んでリフォームしたりもするかもしれません。CD屋がないからラジオを聴き、カフェがないから人を招いたり招かれたりし、そんな時の手土産はもちろん既製品ではなく、庭の花で作った花束だったり、お手製のパイやクッキーだったり・・・。

想像するだけで、うっとりしてしまうような暮らしです。この年になると、モノのない不便さよりも、モノがないことで得られる豊かさの方がはるかに大切なのです。世界の一流品を身の回りに揃えても、使い手がそこに息吹を吹き込めなければ、ブタに真珠でしかありません。やっと手に入れた自己満足とてそう長くは続きませんし、クレジットカードの請求書を見たとたん、後悔することさえあるでしょう。

それに引き換え、すみずみにまで目の行き届いた、フットワークの軽いこざっぱりと満ち足りた毎日。それが1キロの町でかなうのなら、私にとってそこは憧れの町です。溺れるほどのモノの中からやっとの思いで"選ぶ"ことは、私の中では完全に過去になりました。限られたものの中から、何かを"作る"愉しみ知ってしまった以上、後戻りはありません。そこにはずらりと並ぶコンビニ弁当とシェフが腕によりをかけた一品ほどの違いがあります。

もちろん、「そんなこと言ったて不便やモノがないのはイヤ」、「使い道のない垢抜けない手作り品をもらうくらいなら、オシャレで使える、買ってきたものが欲しい」という現実的な意見も否定しません。そういう考えが多数を占めることも、若い時は何かと欲張りなことも、よくよく承知しています。ですから、これは人様に薦めるような暮らしではなく、ただただ自分が愉しむものなのです。生活なんて千差万別。それでいいのです。息子達が大きくなり、「こんな退屈な町は耐えられない。」と言って出て行ってもまったく構いませんし、見聞を広めてもらうためにはむしろ背中を押したいくらいです。

しかし、そんな彼らが大都会でモノとヒトに首まで浸かりながらも、ふと乾きを感じた時、"退屈な町"のゆったりとした時間、大切にされた物、それを慈しむ人や暮らしを思い出してくれたら、それで十分です。生きて行く価値観にはいくつも引き出しがあることさえわかっていれば、あとは自分で好きな引き出しを開けることでしょう。今の私はモノのない豊かさに心を奪われており、すでにあるものは感謝をこめて循環させています。お下がりをもらったりあげたり、香港では任意でしか回収しない分別ゴミに執心しているのはそのためです。いつかこれを、はるか遠くの1キロの暮らしへとつなげていきましょう。

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「マヨネーズ」 空のかなたの宇宙に浮かぶ、直径4千キロの巨大ダイヤが見つかったそうです。といっても実際は星の内部なので、美しく輝くものが真っ暗な宇宙空間に浮かんでいる訳ではなさそうですが(研磨もしてないし)、なんとも心動かされる話です。月の直径が3476キロだそうなので、月より大きいダイヤということになります。「重さは10の34乗カラット」って、まったくもう想像外。この星、ビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」にちなんで「ルーシー」と名付けられたそうです。なんだかとってもウレシくなります。宇宙は感動に満ちてますね。

オンナに生まれながら、まったく宝石に興味のない私。しかし、鉱物系のものは大好きで石、タイル、ガラス、はては貝殻やアンモナイトの化石まで(関係ない?)、いろんなものを持ってます。「ルーシー」も私にとっては立派な鉱物。大いに興味をそそられます。

西蘭みこと