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Vol.004 ■ アンティークな彼

9年前にニュージーランを旅行した時、褪めた色合いのウェッジウッドの灰皿を見つけ、タバコも吸わないのに一目で気に入ってしまいました。今回の旅行でも同じようなのを探してみようと思っていましたが、時間もあまりなく半分あきらめ気味に。ところがクイーンズタウンから足を延ばしたアロータウンのアンティークショップというか、古道具屋という方がぴったりなお店で、そっくりな色合いのウェッジウッドのお皿を見つけてしまいました。のんびりとした静かな午後に、沸きあがる喜びを一人噛み締めながら、心の中ではVサイン!いそいそとレジへ。

並んでいる商品と変わらない年代と思しきおじいさんが鼻眼鏡で迎えてくれ、にこやかに挨拶を交わしたところで「クレジットカード使えますよね。」と軽く念を押しました。ちょっと耳が遠そうな彼は「ええぇぇ?」とビックリするくらい大きな声で言って、「うちはカードはダメなんだ」と、残念そうに言うではありませんか。

今度はこっちが「ええぇぇ?」。「だってあそこにステッカーが・・・」と入り口のビザのステッカーを指差すと、またもや彼が「ええぇぇ?」。「知らなかったよ。」とポツリ。今度は「どうすればいいんだい?」と不安そうに聞いてくるではないですか。そ、そんな。あなたの店ではないの? 「こういうガッチャンっていう機械があるでしょう?そこに紙を挟んで〜」と身振り手振りで説明し、二人でレジ周りを探したものの機械は見当たらず。私はここで現金を使ってしまうわけにはいかなかったので「はて、どうするか?」と思っていると、とうとう彼が店の奥から機械とほとんど使った形跡のないカーボン紙を見つけてきました。

彼に代わって日付と金額を書き入れた紙をガッチャンし、サインをしていると、彼が「私はどこにサインすればいいんだい?」。噴き出しそうなのを堪えて顧客用の控えをはがし残りを返すと、彼は一瞬きょとんとした後、「Good girl!」と大きな声で褒めてくれました。カードを切ったのはパリの免税店でのアルバイト以来なんと16年ぶり!旅行から戻るとすでに請求書が届いていて、思わずアンティークな彼を思い出しました。「どこにサインするつもりだったのかしら?」と・・・。

西蘭みこと