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Vol.005 ■ クライストチャーチの天津甘栗?

「コレって天津甘栗の匂いだよね〜」。ニュージーランド旅行の際、クライストチャーチの大聖堂広場で、麦藁帽子にサングラスの若いお二イさんが、何やら香ばしい香りのするものを売っていました。遠目だったのでよくわかりませんでしたが、温めたナッツにキャラメルをからめたようなものに見え、辺りには甘い香りが漂っています。

子供たちは開放感からそこら中を走り周り、私たちはメタリックなシルバーとインディゴの組み合わせが美しい、巨大にして繊細な真新しいモニュメントや重厚なカセドラルを見上げたりしながら、ごく普通の観光客風情でした。しかし実際は、おニイさんに目が釘付けだったのです。私たちを捉えて離さなかったのは、天津甘栗もどきではなく、彼が着ていた年季の入ったラグビージャージ・・・・。

それは間違いなく、夫が所属する香港フットボールクラブのラグビーチームのもので、しかも胸には香港返還の年だった「1997」年という数字に、身をくねらせた真っ赤なドラゴンの刺繍まで入った香港返還記念ジャージではないですか!

「かなり細身に見えるけど、一本目(ラグビーで一番強いチーム、野球で言えば一軍)だったのかな?うう〜ん、さすがNZ。香港の一本目でも帰ってくればタダの人で甘栗売ってるんだろうか?」、と二人で彼を遠巻きにしながら、風船のように想像力を膨らませていました・・・・。

とうとう我慢できなくなった夫がつかつかと彼のもとへ。何やら和やかに立ち話。「でかした夫!これでカレが何者かわかる♪」と期待して待つこと数分。しかし戻ってきた夫の報告は全く意外なものでした。「友達にもらったジャージで、香港に行ったことはないんだって」。あらら・・・。輝く一本目のイメージが頭の中でガラガラと崩れていきました。でも、こちらを見たおニイさんの、「して、やったり」というサングラスの下のにんまりスマイルは最高でした。お互い手を振って爽やかに別れ、結局、甘栗の正体を確かめるのを忘れてしまいました。アレって、いったい何だったのでしょう?

西蘭みこと