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Vol.009 ■ マシンガンをブッ放しても

「ねぇ、キアオラのスペルってさぁ・・・」と、同僚のチャイニーズ・キウイに聞こうとすると、「オレにマオリ語なんて聞くなよ。」とあっさり。「だってキウイでしょう?」「キウイでも、オレはチャイニーズ!」と、意味なく胸を張っていて「どんなもんだい!」と言わんばかり。

「So?」(使えないなぁ〜)と自分の席に戻ろうとすると、「まだ本気でニュージーランド行くつもり?」と来た。「モチロン!!日夜1_でもお近づきになれるように、これでも努力してるのよ!」NZは英領では珍しくインチ表記でなくメートル法なので、この手の冗談が言えるのがウレシイ。「そっちこそ帰ったら?あんなにいい国ないよ。」

「オレはシティボーイ!あんな退屈なところじゃ暮らせないよ」。私より背が低いかもっていう感じで、日頃からお茶目なノリがウリの彼の口から、"シティボーイ"と宣言されてもねぇ。しかもこのゴチャゴチャした洗練とは程遠い香港ではいかがなものか・・・。「ウェリントンの実家近くで夕方6時に通りに出て、マシンガンをブッ放して見ろよ。誰〜〜〜にも当たんないぜ!誰もいないんだから。虚しいぜ〜。」

なぜ彼がブッ放したくなったか事の経緯を聞くと、数年ぶりに帰国した時、かつてのクラスメートがバーベキューをやってくれたものの、ひとしきり彼の近況を聞いた後の話題は、「子供」「住宅ローン」「芝刈り機比較」と、独身で海外に暮らす彼には全く入れない話題ばかり。同じ年の同級生がみんな「自分のオヤジに見えた」そうで、その帰り道に運転しながら、ふと頭をかすめたのが"誰にも当たらないマシンガン"だったのだそうです。

「じゃ、香港に一生いるつもり?」「まさか、ここは稼ぐだけさ。将来はミッションベイに家を買って、ガールフレンドと一緒にプーケットとオークランドを行ったりきたりして・・・」と、ずい分呑気な話。「そうやってね、老後だけ頼ろうとする輩がいっぱいいるから社会保障はいつも火の車なのよ。若いうちからしっかり税金や年金納めなきゃ・・・」「冗談だろ?税率いくらか知ってるだろ?」。こうしてアオテアロアに行きたいガイジンと帰りたくないキウイの、何の接点もない押し問答が延々と続くのでした。

西蘭みこと