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Vol.012 ■ アンクル・テリー

さんざんお世話になったカイコウラのモーテルを名残惜しく出かけると入り口のところに"168"と大きく番地が出ていました。"168 ザ・エスプラネード、カイコウラ"これが「クリアーウォーター・モーテル」の住所です。「すごくいい番号じゃない!」と思わずびっくりしてオーナーのテリーに言うと、「チャイニーズのお客がみんなそう言うんだけど・・・」と半信半疑。

「これは"ずっとお金が儲かる"って言う意味よ」("一六八"を発音が同じ"一路発"に読み替えたもので、"発"は"発財"=中国語で"大儲け"なのでズバリ"一路大儲け"の意!)と言うと、「本当かい?」とテリーは素直に嬉しそうです。でも実際の彼はそれほど商売熱心と言うわけではなく、中庸を心得た素晴らしい人でした。チェックアウトの時も「ここに泊って満足してもらえたかな?部屋を売って代金を請求するというより、提供したもてなしに値段をつけさせてもらおうと思うんだけど・・・」と言っていました。

彼はたった一泊しかしなかった私達をバーベキューに誘ってくれ、「是非食べて欲しかった」と直径15センチはありそうな掌大のパウア(アワビ)を二つも焼いてくれたのです。それは見知らぬ人から知り合って数時間後に受ける歓待としては最大級のものでした。歯ごたえのある焼きたてのパウアは、その感動とともに忘れえぬ美味しさでした。記念に内側が七色に輝く貝殻をもらってきました。

思いがけないもてなしに嬉しいながらも恐れ入る私達大人に対し、子供はまさに手放しの喜びようで、"アンクル・テリー"にぞっこん。8才になったばかりの長男はテリーからアイリッシュの笛を習いながら、「ママたち旅行してきていいよ。ボクここにいるから終わったら迎えに来て」と言い出すほど。数時間でここまで子供の心を捉えられるというのは並大抵のことではありません。テリーのような人には必要な額のお金は一生着いて回るのでしょう。"168"はまんざら迷信ではなさそうです。

西蘭みこと