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Vol.020 ■ 翼に託す夢

インド系ニュージーランド人のカルナ・ムトゥ氏は報道陣を前に、彼がなぜNZに来たのかを語りました。「ここにやって来たあなた方の先祖やマオリの人たちと同じ理由からです。子供や自分たちのために、より良い生活の場とチャンスを求めてやってきたのです」と。私はこのムトゥ氏という人を知りませんでしたが、新聞記事のこの一言が目に止まりました。彼は最近、人種差別発言を繰り返しているニュージーランド・ファースト党のピーターズ党首に対し、"Stop racism!"と直接訴えた直後に、集まった報道陣に対しこう語ったのです。

ここで人種差別問題を論じるつもりはありません。興味を持ったのはムトゥ氏の言っていることを間違っていると言える人が、NZには一人もいないことです。NZはもともと人間どころか、動物さえいなかった鳥達の楽園だったわけで、時代ごとにさまざまな人が船でやってきては島を"発見"し、そのうちマオリの人たちが定住を始め、先住民となったのです。

ですからやってきた順番や生活を始めてからの期間の違いこそあっても、この島で生活しているすべての人はどこからか移住してきた人か、その子孫なのです。自明なことではあるものの、改めて指摘されると、まるでコロンブスの卵でも見せられたような新鮮な感じがしました。

誰のものでもなかった島――。そこにいろいろな夢を携えた人たちが集まり、その実現のために懸命に努力し、時には命をかけて今日を築いてきたのです。小さな諍いから戦争まで数えきれないほどの対立を乗り越え、大切なものを失ったり、夢敗れて島を離れる人を見送りながら、それでも大勢が留まり、家をなし、子孫を残して、国を形成してきたのです。

歴史というものは長ければ長いほど良いように思われがちですが、ムトゥ氏の一言で、歴史が浅いのもあながち悪くはないかもしれないと思い直しました。若い国である分、縛られるしきたりや超えられない伝統もなく、いろいろな人が集って社会を担っていく中で、「小さいながらも自分もその一翼になれるかもしれない…」という想いが、また新たな夢を紡いでいくのではないでしょうか?そんな夢を見せてくれる島、それが私にとってのNZなのです。

西蘭みこと