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Vol.028 ■ 旅する人々

ニュージーランドを旅行しているとキャンピングカーを良く見かけますが、マウント・マウンガヌイで見たのはバスでした。しかも二階建てのかなり旧型のロンドンバス!かつて国内の路線バスだったのか、わざわざ輸入されたものかはわかりませんが、これだったら中がかなり広いでしょう。車体は黄緑色で前のエンジンルームのところだけが黄色という、なんとも明るい色。前のところには自転車までぶら下げてあります。

「これじゃ、"隣のトトロ"のネコのバスだな」と思ったほど、ファンタジックなバスでした。海岸沿いの駐車場に他の車に混ざって停まり、かなり年配の、でも見るからに鍛えた感じの夫婦がバスの脇の芝生に座りながら、仲睦まじく日向ぼっこをしていました。こうして身を寄せ合いながらNZ中を旅しているのかもしれません。入江の先端に両側から海が迫る、不思議な地形とともに、あの地の二人の姿はとても印象的でした。

NZでは明らかにキャンピングカーで暮らしているんだろうな、と思われる家族やカップルを時々見かけます。古くてもカーテン越しに見える"お宅"はこざっぱりとしていることが多いです。彼らを見るにつけ思い出すのは、フランスで暮らしていたときに見かけたジプシーたちです。別にメランコリックなギターに合わせて哀愁と情熱のダンスを踊るのばかりがジプシーではなく、彼らもまた親であり、生活者なのです。

どこかに留まり半年から年単位で暮らすこともあり、大人は仕事に出て子供は学校に通うんだそうです。でもいつか忽然と行き先も知れずにいなくなってしまうところだけは共通しています。そこはかとなく漂う浮遊感、「世が明けたら、いなくなっているかもしれない」と思わせる刹那的な雰囲気は、エキゾチックな顔立ちとともに子供にまで備わっているようです。

でも、NZの空の下では、旅する人々の印象は妙に明るくあっけらかんとしたものです。国土の大きさは限られているし、顔立ちがみなと違うわけでもありません。ある日旅が終わったら、故郷に帰っていくこともできるはずです。しかも、いざ帰ろうと思ったら1、2日もあれば十分に運転して帰れるこの距離感。この明るさは帰るところがあって旅を続ける人の余裕なのか、はたまたNZの光のせいなのか。

西蘭みこと