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Vol.031 ■ 世界一のもてなし上手

最近読んだ「南極点より愛をこめて」(ジュリ・ニールセン著)は本当に面白い本でした。全米でベストセラーになったのでお読みになった方も多いかもしれませんが、南極越冬隊員として送り込まれたアメリカ人女性医師が、赴任中に乳がんに侵されるという実話です。真冬の南極はジェット燃料がジェル状に固まって使えなくなるほど寒い零下70℃にもなり、脱出不可能と言われていましたが、その中で彼女は仲間に支えられ、自分で自分を治療しながら最後には脱出していくのです。

本の中でニュージーランドのことが何回も出てきて、改めて南極との近さを感じました。隊員も物資もクライストチャーチからの飛行機で運ばれ、病人が出ても任務を終えた帰路でも、まず最初にCHCHに向かいます。CHCHには隊員御用達のパブもあるそうで、思った以上に南極はNZに近い場所でした。むしろ思っている以上にNZが遠いところなのかもしれません。

発病するなど夢にも思っていなかった元気な頃、主人公のジュリはNZ基地のスコット基地を訪ねています。「いかにもニュージーランドの基地らしく、診療所は塵ひとつなく、整理が行き届いていた」とあり、入り江を見渡せるおしゃれな食堂でアザラシが流氷に上がってくるのを見ながら食事をし、その後はバーでくつろぎ・・・と、楽しいひと時を過ごします。そして「南極の住人のあいだではニュージーランド人が世界で一番もてなし上手だというのが定説になっているが、わたしもスコット基地を訪問してみて、そのとおりだと思った。スコット基地はほんとうに居心地がよかった」と、回述しています。

南極は厳しい環境の中に世界の英才が集まる特殊な場所ですが、その中で「世界一のもてなし上手」という折り紙を張られているというのは、とてもカッコいいと思いませんか?気持ちの余裕、それを可能にする体力の余裕、生来の優しさ、博愛や献身など、人となりとしては理想でありながら、実生活ではとてもそんなことを言っていられないものが、尋常ならぬ環境の中で他人に示せるとその懐の広さ!しかも、それが定説となっているほど皆に認められているなんて、冷たい氷の世界でこそ伝わってくる温かさなのかもしれません。

西蘭みこと