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Vol.033 ■ 二本のスプーン

1年ぶりに訪れたニュージーランド。何を見ても、どこへ行っても、何をしていても、「いいなぁ、いいなぁ。早く住みたいなぁ♪」を連発している私に、「結局のところさ、NZに関するものだったら何でもいいんでしょう?」と、夫が冷やかしの一言。彼も私の夢に付き合って移住を決心してくれたとは言え、私ほどの"右派"ではなく、"中道左派"くらいなので、私の目が完全にハートになっているのを半ば呆れ、半ば感心して見ています。

そんな私達が出かけたある北の町のオープンカフェでのこと。運ばれてきたランチにはフォークとナイフが紙ナプキンにくるまれてついてきました。それを見るや店に入り、何も説明しないまま「スプーンを一本ください」と言うと、すぐそこにスプーンがあるのに、「今、お持ちします」と言われました。席に戻って待っていると、紙ナプキンにくるまれたスプーンがお盆に載せて丁重に運ばれてきました。「お子さんがいるのに気がつかなくて・・・」という言葉とともに。

目の前のスプーンをそのまま手渡してくれることだってできたはずなのに、「子供用だ」ととっさに気付いてくれた上、子供といえどもお客としてもてなすために、他のカトラリーと同じようにスプーン一本を丁寧にくるんで運んできてくれるこのひと手間。しかも、こちらが頼んだ一本ではなく、子供が二人いるのを見て二本持って来てくれるこの思いやり。思わず 「すいません、何枚もナプキンを使わせてしまって」と恐縮してしまうと、「子供にはナプキンがたくさん要りますからね。どうぞ使って下さい」と、更に温かい言葉が追いかけてきました。

こんな経験ができるNZはやっぱりすごい。日を追ってもその感動は薄れるどころか、ますます強くなる一方です。旅行者のいいとこ取りと言われてしまえばそれまででしょうが、ナプキンにくるまれたスプーンへの感動は、将来そこに住めることになっても変わらないでしょう。当面は熱を上げたままの、"極右"状態が続きそうです。

西蘭みこと