Vol.038 ■ オークランド警察 「南アフリカからの方ですか?」と、待っていた私たち夫婦は初老の恰幅のいい白人男性に声をかけられました。そうは見えないはずだけど?と、思いながら、「いいえ、日本人です」と答えると、「そうでしょうね。違うかなとは思ったんですが・・・」と、彼は飄々と言ってのけ、待っていたもう一組の褐色の男性二人に、「スリランカの方ですか?」と声をかけています。そちらの方はいい線いきそうでしたが、その二人もやはり「No・・・」、と言いながら、「トルコ人」と答えていました。 2月初めのオークランド警察。私達は移住に必要な無犯罪証明書を取るための指紋採取に来ていました。急なことだったので事前予約がとれず、「予約の合い間に時間があったら」という条件で来ていました。係官は手にした紙ばさみをチェックしながら、「南アフリカ人とスリランカ人がまだで、次のシンガポール人もまだ来てなくて・・・」と、ブツブツ言いながら、なんとか私たちを間に挟み込もうと律儀そうに対応してくれていました。 その時、かなり派手なサイクリングウェアを着た、小柄ながらこれまた初老の男性がスッと入ってきました。被ったキャップから背負ったデイパック、ウェアに至るまで蛍光カラーが鮮やかで、まさに「ひとっ走りしてきました!」といわんばかりのいでたちです。「カッコいいなぁ」と思って見ていると、彼が何か小さなものを差し出し一言二言話すと、カウンターの向こうの警察官は木の箱を出してきました。30a四方ぐらい箱の手前には、手書きの"KEY"という文字がはっきりと見え、中にはカギがぎっしり入っています。どうも拾った鍵を届けに来たようです。 彼は鍵をポンと箱に投げ入れると、来た時のようにサッと去っていきました。対応に出た警察官も拾った場所を聞いて書き残すわけでもなく、そのまま箱を持って引っ込んでしまいました。ぶっきらぼうな対応のようですが、「落とした人が困るだろう」と市民が届けた善意の鍵があんなにたくさん溜まっていたのには感動しました。わざわざここまで足を運んだ人が、少なくともあの鍵の数だけいたのです。 「いい場面を見たな〜」と思ったその時、名前を呼ばれ、先ほどの係官が「お待たせしました」と英語で言い、「オハヨウゴザイマス」と言いながらにっこりと私たちを招き入れてくれました。 西蘭みこと
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