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Vol.040 ■ ニュージーランドの木

「おみやげに便器を買って帰ろうと思うの・・・」。初めてニュージーランドに旅行した約11年前、私は夫にそんなことを言っていました。結婚して数年、私のこの手の言動にすっかり慣れっこになっていたのか、もともと性格が鷹揚なのか、夫は「好きにしたら」と言うだけでした。彼の消極的賛同を得て、私はワクワクしつつ「どこに売ってるんだろう?」と町から町へ車で旅する道すがら、助手席できょろきょろしていました。

便器のふたと座るところの"輪っか"が木でできたセットを雑誌で見かけ、「うちもアレにしよう」と思ったものの、当時暮らしていたシンガポールでは見つけられませんでした。ところが、NZに来るやいなや、あちこちであの"輪っか"にお目にかかったのです。座っても冷やりとした感じがなく、無機質なトイレという場所にあって何とも温かみのある木目。「絶対買って帰ろう!」と、どこかのトイレに座りながら決心しました。しかし、残念ながらその旅行中には見つけられませんでした。

ニュージーランドを旅行していると、あちこちで木製の懐かしいものを目にします。「そうそう、こんなの子供の頃にあったよね」と思うような、今ではプラスチックや他の素材に変わってしまったものがけっこうあるのです。例えばポスト。きれいにペンキを塗ったものや凝った飾りつけをしたものまでいろいろですが、工夫を凝らしたもののかなりが木製です。何気ないフェンスや塀。同じ高さの杭を打ち込んでワイヤーを横に走らせただけの動物用の柵や上からきれいな花をたくさんつけた枝がしなだれかかる塀も、今では多くが他の素材に変わってしまいあまり見なくなりました。

プランター、ちょっとした標識、ベンチ。どこの町にもあるような自然公園内の足場の悪い傾斜地には横木が埋め込まれて階段状になっていたりもします。子供が遊ぶ公園の遊具の下の部分にも木片がたくさん敷き詰めてあり、落ちた時や飛び降りた時のクッションになっています。これらはいずれも恒久的なものではなく、どこかで取り替えたり補強しなくてはいけない手間も費用もかかるものなのでしょうが、その面倒さを厭わないことから何とも言えない温かみが生まれているように思います。「移住したらやっぱり木の"輪っか"を探そう」、今回の旅行で11年前の想いを新たにしました。

西蘭みこと